中小企業の「見つめ直す経営」

独自性を際立たせ、ビジネスモデルを転換 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

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どうやって見つめ直したのか

 次は、どうやって見つめ直したのかをみていきます。

□ 濃淡あるIT活用

 多くの企業が何らかの形でITを活用していますが、必ずしも大がかりなシステムが必要なわけではありません。大切なのは自社に真に必要な効率化を実現できるシステムを構築することです。

 アオヤマ(青山重俊社長、香川県高松市、従業者数170人)は、和風惣菜を製造し、県内外のスーパーに出荷しています。その量は1日当たり約3万食に上りますが、家庭の味を再現するという理念の下、大鍋による量産は行わず、家庭用の小鍋による調理にこだわっています。調理に多くの人員を充てるため、材料調達や商品出荷など調理以外の業務は、ITを使ったシステムを導入して省力化を図ることにしました。

 開発パートナーの選定に当たって挙げた条件は、システムトラブルが起きたときにすぐに助けてもらえること、長期にわたってアフターフォローをしてくれること、同社の仕事内容を十分に理解して開発に取り組んでくれること、の3つです。この条件を満たしたのが、地元にある従業者数5人のIT企業でした。小所帯であるにもかかわらず、社長自らが週に一度同社を訪れ、約半年間、契約社員として実際に調達や出荷の作業経験を積んでからシステム開発に取りかかってくれました。仕事の内容や従業員のスキルを踏まえてつくられたシステムは、ITに不慣れな従業員にも使いやすいものでした。このシステムの導入により、周辺業務は誰でも容易に数値で把握できるようになりました。

□ アナログツールの活用

 アナログな方法は、ITのような目新しさはないかもしれませんが、比較的低コストで実現でき、企業規模を問わず採用しやすいメリットがあります。

 鐘川製作所(現・ベルテクネ、鐘川喜久治社長、福岡県粕屋郡、従業者数82人)は、金属部品の板金加工を手がけています。同社は、社内が一枚岩になり成長していく「全員経営」を標榜しています。これを実現するため、鐘川社長はA3用紙1枚の「経営チェックシート」をつくりました。従業員全員が会社と経営陣の業績を評価するもので、12の質問項目に対して、それぞれ5段階で評価するようになっています。

 初めに導入を提案したとき、社内は反対ムード一色でした。そこで鐘川社長は、無記名式とする、うまくいかなければ1回でやめると社内を説得しました。しかしふたを開けてみると、役員に対する従業員の評価は鐘川社長が役員を評価する場合とほとんど変わらず、翌年から反対の声はなくなりました。むしろ経営チェックシートの導入によって、従業員が経営者の目線で行動するようになったといいます。

□ 外部資源の活用

 コンサルタントやIT業者など、外部の力を借りるのも有効です。ただ、すべて他人任せにするのではなく、経営者が主体的に取り組むことが、成果をあげる大前提です。

 出立木工所(出立浩之社長、京都府舞鶴市、従業者数7人)は、1913年の創業以来、製材加工業を営んできました。取り扱う原木は一貫してカシの木です。現在は、出立社長が4代目として工場を切り盛りしています。

 あるとき、地元の商工会議所から「知恵の経営報告書」をつくってみないかと声をかけられます。人材や技術、組織力、顧客とのつながりなど、目に見えにくい強みを掘り下げて独自性を明らかにし、商品力向上や顧客開拓、仕事の効率化などを狙うものです。出立社長は無料で受けられる中小企業診断士の助言を活用しながら、報告書の作成に取り組むことにしました。その過程では、返品率や歩留率(加工木材に占める良品の割合)で、技術力や生産性を数値化することにも取り組みました。数値を織り交ぜ自社の強みを可視化したことで、経営目標が立てやすくなり、従業員とも共有しやすくなりました。

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