中小企業の「見つめ直す経営」

独自性を際立たせ、ビジネスモデルを転換 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 藤田 一郎氏

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 本連載では、「データを使って経営活動に関する身近な事象を的確にとらえ、周囲と共有しながら事業の改善につなげる経営」を「見つめ直す経営」と定義し、それを実践した企業事例を紹介してきました。最終回となる今回は、それらの事例を踏まえ、何をどのように見つめ直したのか、そしてその結果何を得られたのかについて、解説します。

何を見つめ直したのか

 何を見つめ直すかは、企業によって異なります。以下では、企業活動の基本である販売戦略、生産管理、間接部門の3つに分けて、事例を整理してみましょう。

□ 販売戦略

 1つ目は、販売戦略です。いかにして需要をとらえた商品やサービスを効率良く提供するかがポイントになります。

 仏具の製造・販売を手がける、お佛壇のやまき(浅野秀浩社長、静岡県静岡市、従業者数35人)は、縮小する業界で業績を伸ばしています。仏壇は価値の違いが見えにくいため、特性をわかりやすく伝え、信頼を獲得することが重要です。加えて、主な購入動機は亡くなった家族を弔うためですから、顧客の心情に寄り添う接客が求められます。

 浅野社長は社内で抜群の販売実績をあげていたスタッフの接客動作や会話の内容を観察し、接客応対を見つめ直すことにしました。そのスタッフは故人の生前の様子や趣味、色の好みなどを自然に聞き出し、仏壇や仏具を顧客と一緒になって選んでいることがわかりました。さらに分析を進めた結果、親身な接客をするためには、スタッフ自身も家族と過ごす時間をより多く取るべきとの考えに至ります。そこで浅野社長は勤務時間の短縮を目指して、従業員の多能化に取り組みました。商品や仏事の知識、顧客応対例、見積書の作成、などを整理した業務マニュアルを作成し、担当外の仕事についても習得を促しました。接客技術をマニュアルで可視化・共有化することで、顧客ニーズを開拓するとともに、販売効率を上げる戦略を採ったわけです。

□ 生産管理

 製造業の生産工程では、先進的なシステムを開発するケースばかりではなく、標準的な手法をアレンジして取り入れるケースもあります。

 ルポン(梶塚謙社長、群馬県太田市、従業者数12人)は住宅街に立地する洋菓子店です。同社は生産の効率化に向けて、外部から生産管理のコンサルタントを招き、原価管理から従業員の作業動作、設備の活用方法まで多岐にわたって指導を受けました。ただ、厨房を動くときの足の出し方といった指摘は細かすぎたのか、従業員の反発を買ってしまいました。

 そこで梶塚社長は、自社なりの改善策を探ります。調理器具の配置や厨房内の動線などについて、従業員自身がストップウオッチを使ってデータを集め、改善を進めたのです。結果、これまで3人で行っていた作業を2人でできるようになるなど、生産効率の向上を実現しました。

□ 間接部門

 見つめ直す対象としては、生産・販売だけでなく、原材料調達、人事労務管理、総務、経理などの間接部門も考えられます。こうした部門は売上増加に直接結びつくわけではないため、検討の優先順位は低くなりがちです。しかし実際には、間接部門を見つめ直すことで企業パフォーマンスを高めている事例もありました。

 マルキンアド(山田勝博社長、群馬県富岡市、従業者数26人)は企業広告の企画・制作、ウェブサイトの構築・運用、イベントの運営などを手がけています。もとは印刷工場でしたが、バブル崩壊に先立ち、デザイン会社へと転換を図りました。事業転換は順調に進みましたが、課題も残ります。デザイン業界の仕事は幅が広く、専門性をもった従業員による分業制となっています。問題となったのは人事評価でした。印刷工場の時代は従業員の経験や役職に応じて一方的に評価すればよかったのですが、仕事の内容や仕事に対する考え方が多様になるにつれ、誰もが納得できる基準で評価することが難しくなってきたのです。

 そこで山田社長は人事評価の仕組みを見つめ直しました。従業員が互いの仕事ぶりを採点し、その結果を賞与に反映するようにしたのです。評価は項目ごとに点数化されるので、評価点や改善点が本人に見えるようになり、納得度が高まっていきました。自然と従業員の相互理解も進んだといいます。その結果、ウェブサイトの構築や印刷物のデザインなどを一括受注してもスムーズに対応できるようになり、利益率が高まりました。

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