御社の意思決定がダメな理由

なぜ、企業は「突然死」をするのか? 野村総合研究所 根岸正州、森沢徹

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カネボウのケース──行き過ぎた家族主義による「内向き」な判断

 カネボウは、現在は化粧品ブランドとして有名であるが、創業時は繊維企業であったということは、多くの読者が知っているとおりである。

 創業は1887年と19世紀までさかのぼり、100年以上の社歴を持つ伝統ある企業だった。しかし2008年、事業譲渡などを行ったうえで法人としては清算・消滅してしまった。

 バブル崩壊後から、化粧品事業は黒字であったものの、繊維などの他の事業の赤字が徐々に拡大し、2001年度にはついに債務超過に陥った。本来であれば、上場企業として債務超過についての適時開示を行う必要があるのだが、当時の経営層は粉飾決算を行うことでこれを隠蔽したのである。

 粉飾に一度手を染めてしまうと、そこから抜け出すのは難しい。2002年度決算では、約260億円の赤字を約1億弱の黒字に、約1900億円の債務超過を約10億弱の資産超過に粉飾した有価証券報告書を提出。翌年度も同様に粉飾を繰り返した。

 当然、この間に抜本的な改革に手をつけられることはなく、結局、2003年度決算で約3500億円にも及ぶ債務超過が明るみに出ることとなった。

 その後の経緯は、以下のとおりだ。2004年、政府系出資の企業再生を担う産業再生機構の支援を受けることが決定される。翌2005年には、東京証券取引所および大阪証券取引所がカネボウ株の上場廃止を通告。旧経営陣は証券取引法違反で逮捕され、同社の粉飾決算を指南していた中央青山監査法人の公認会計士4名も証券取引法違反で逮捕されることとなってしまった。

 なお、中央青山監査法人はこの罰として2006年に金融庁から業務停止命令を受け、後に解散することになる。

 結局、カネボウは解体され、「カネボウ化粧品」は花王グループの一子会社としてその名を残すのみとなった。

 この問題について、どう捉えればいいのだろうか。100年継続してきた企業には、それ相応の歴史があるため、経営者が元凶であるとか、繊維事業が悪いなどという単純化は難しい。100年に及ぶ歴史の中で、繊維事業から化粧品や薬品、食品、住宅事業への転換を図り、事業を多角化してきたことも、事業ポートフォリオの組み換えとしては理解できるものだ。事業の認識や市場環境の分析も、当時としてはきちんと実施されていたという話も多い。

 創業事業である繊維事業は、明治維新後の殖産興業の旗印のもと、中学を卒業したばかりの若者が会社の寮に入り、同じ釜の飯を食べて、まさに家族のように仲間を大切にする企業風土だったという。そしてその家族主義の中で、売り上げなどのストレッチゴールに向け、社員一丸となって成果を挙げるべく努力をしてきたというOBの意見も聞く。

 ただ、最終的な経営判断は、行き過ぎた家族主義のもとに下されてきた。内向きで、保守的で、既存事業を温存する「ぬるま湯体質」が染みつき、既存の事業が悪いことがわかっていながら、なかなか事業ポートフォリオの組み換えに踏み切ることができなかったのである。

 結果として、債務超過を隠すために、粉飾決算をするという経営判断を繰り返してしまった。

 その後、産業再生機構という公的資金を活用して、大規模な事業、および人的なリストラが実施された。この結果、家族主義は破壊された。もう少し事前にオープンな情報に基づき、事業構造改革を実施していれば、次の100年も違った結果になったかもしれないと筆者は考える。

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