御社の意思決定がダメな理由

なぜ、企業は「突然死」をするのか? 野村総合研究所 根岸正州、森沢徹

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 最近、優良といわれる企業が意思決定を間違え、大きな損失を被ったり、事実上の倒産をしたりするケースがあります。まるで「突然死」を迎えたかのようですが、実はその「病状」はしばらく前から進行していたことがほとんどです。根岸正州、森沢徹の両氏による著書『御社の意思決定がダメな理由』ではこのように経営陣の責任、意思決定の誤りによって企業が立ち行かなくなる状態を「経営不全症候群(MDS:Management Dysfunctional Syndrome)」と呼んでいます。第1回では企業が「突然死」のように倒産する現象の背景を説明します。

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東芝のケース──「チャレンジ」号令から始まった負の連鎖

 社内会計情報の操作と業績のかさ上げによる粉飾決算。M&Aをめぐるトラブル。くすぶる上場廃止の危機。収益の柱となる半導体事業売却での迷走……2015年ごろから、東芝の不祥事が新聞・ニュースを騒がせている。

 多くの読者もご存じのとおり、同社の経営層は、期末に向けた社内業績審議会議で、事業部門側が提示した現実的な業績改善策を「とんでもない、3日間で100億円かさ上げして持ってこい!」と突き返したと言われている。このような極端に高い業績目標設定を「チャレンジ」という価値観で尊び、非現実的な目標達成に「コミットメント」することが事業部門に求められ続けてきた。この結果、業績悪化と粉飾の連鎖を、長い期間断ち切れなかったのである。

 こうした歪んだ業績情報のコミュニケーションは、経営層から見たときに、「現場で本当に何が起こっているのか」という可視性を著しく低下させたのではないだろうか。筆者は、このことが原因で抜本的な問題指摘と解決策提示がなされず、マネジメント上の大きな問題につながっていたと考えている。

 これは、典型的な経営情報に関する「認知疾患」と呼ぶことができるだろう。経営陣が真実を見ることなく、目標設定などの経営判断に走ってしまう。さらに、意思決定者(多くの場合、歴代の社長)の選択肢を認知・判断するうえで、心理的なアンカリング・バイアスが強く作用したと考えられる。アンカリング・バイアスとは、意思決定に際し何らかの「初期値」を基準にし、そこから離れる思考ができないことだ。「先代が決めたことだから、ふれられない」といった思考停止があったのではないかと推察できる。

 東芝の経営陣がそのような「経営の認知疾患」を患う中、国内の粉飾騒動に加えて米国のウェスチングハウス(WH)の業績不振が明らかになり、さらに買収した米国エネルギー関連会社の低迷が追い打ちをかける。本来であれば、買収時に合意した受注目標を大幅に下回ったタイミングで、本体から買収先に乗り込み、合理化や抜本的な改善策などを断行すべきであるのだが、迅速な行動を十分に取れたとは言いがたい。

 買収先に対して、性善説に立ってそのやり方を過度に尊重してしまうというのは、グローバルの常識からは外れている。何かあれば、買収先にある意味で乗り込んででも、グローバルでの企業価値を最大化するために大なたをふるうことが必要だ。

 こうした行動不全というのは、いわば企業にとっての「生活習慣病」のようなものである。さらに「過去の投資が回収不能となった」という厳しい現実から目を背け、正当化してしまうという心理的バイアスが働く。この結果、埋没費用を引きずってしまい、行動不全を長引かせることにつながった。

 かくして、日本を代表する企業であった東芝が「突然死」を迎えてしまった。ある種の「脳死」状態の中で、かつての主力事業の切り売りを余儀なくされてしまっており、かつての名門企業の面影はもはやない。

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