現場発で考える新しい働き方

正社員の働き方の変容と新しい働く仕組みのあり方 弁護士 丸尾拓養

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多様な正社員は人事権の放棄により実現する

 厚生労働省は、2012年3月29日、「『多様な形態による正社員』に関する研究会報告書」を公表しました。2014年7月30日には、「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」が同じく公表されました。同報告書は、「多様な正社員」を「職務、勤務地、労働時間等のいずれかが限定的な正社員」と概念整理しています。

 これらが「限定的」であることは、限定的でない「典型的な正規雇用」と比較したとき、法的には、人事権の強さの差として現れます。配転、転勤、時間外・休日労働の命令権を使用者が有するか、有したとしてもその範囲及び権利濫用になる程度が異なります。かつては当然ともされた使用者の強い人事権が制約されることになります。しかし、これにより労働者は「正社員」性の程度を弱めるのかもしれません。これを「正社員」と呼ぶか否かは考え方によるのでしょう。

 企業からみたとき、「限定」されるのは人事権です。これを「限定」とみるのではなく、「放棄」と考えることもできます。放棄することで企業が得るものもあるでしょう。企業があえて働かせ方をいくつかに類型化・範疇化します。そこで実現するのは、「多様な(正)社員」の働かせ方です。相互の相違が明確となった働かせ方です。正規雇用と非正規雇用という二者択一ではなく、複々線化、複々々線化された働き方です。働き方改革実行計画の中には、「多様な働き方が可能な中において、自分の未来を自ら創っていくことができる社会を創る」、「労働者が自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計できるようにな(る)」などの一節があります。

 50年も前の1968年12月25日の最高裁大法廷判決は、「多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するには多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があり、この見地から、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定する必要が生じる」という文章から始まります。この「集合的」、「統一的」、「画一的」に含意されているものは、労働者を同じように扱うという基本的考え方であるように思われます。それは法律上の要請というよりも、企業が「事業を合理的に運営」するためのものでした。「多様な(正)社員」はこの基本的な考え方とやや相容れないものがあるでしょう。

 「働き方改革」や「多様な正社員」は特に先進的なものではなく、むしろ実態や実務の後追いであるようにも見えます。この20年余にわたる時間の流れの中で変化・変容が遅れているものがあるとすれば、それは外部から強制される改革だけでは対処困難であるのかもしれません。企業が、そしてひとりひとりの労働者が自らの問題として、働く現場の中で、地に足をつけて考えていかなければならないのでしょう。

丸尾 拓養(まるお ひろやす)
丸尾法律事務所 弁護士
東京大学卒業。第一東京弁護士会登録。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

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