現場発で考える新しい働き方

正社員の働き方の変容と新しい働く仕組みのあり方 弁護士 丸尾拓養

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正社員が働く仕組みは既に変容してきている

 正社員が働く仕組みは既に大きく変容しているのかもしれません。「正社員」を定義することは難しいのですが、1985年ころの正社員は職能資格等級制度と呼ばれる人事制度の下で働いていました。当時の状況を概していえば、この職能資格等級制度は外資系企業以外のほとんどの企業で導入された人事制度でした。正社員の長期雇用システムは、この職能資格等級制度と定年制を車の両輪としていました。

 職能資格等級制度は能力主義です。成果で評価するのではなく保有能力(職能)を評価します。能力が発揮されなくても、保有しているだけで評価し、これが賃金処遇につながります。それだけに、能力をどのように発揮させるかは使用者である企業の裁量となります。これが「強い人事権」として現れます。保有は蓄積されていきますから、賃金処遇は少なくとも下がることを予定しません。「賃金を下げられない」のは、法律があるからではなく、そのような人事制度、賃金システムを採用していたからです。

 1995年から2005年の間には、1997年の金融危機、その後の事業会社の相次ぐ倒産などがありました。また、景気が循環するものではなく長期低迷する傾向が生じてきました。成果主義人事制度が導入されたのも、この時期です。リストラクチュアリングと呼ばれる人員削減も行われました。正社員の働き方は大きく変容し始めました。2008年のリーマンショック後の変動を受けて、さらに変容します。かつては内部労働市場であった大企業、中堅企業においても、相当に外部労働市場化が進みました。新規学卒一括採用からスタートして60歳定年まで同一の会社で就労するという「正社員モデル」は、既に終焉を迎えているのかもしれません。

 もっとも、こうした正社員モデルは、労働市場全体でみたとき、一部の労働者に関するものにすぎなかったことも事実です。中小企業、零細企業においては、そもそも外部労働市場が成立していました。1970年前後からの最高裁判決で確立されてきた内定、試用、解雇、就業規則などに関する伝統的雇用法理も、「管理職要員」であった一部の労働者を射程とするものであったといえます。しかし、企業はそのような雇用法理を正社員だけでなく、非正規雇用者にも事実上適用していたのでしょう。高度成長、安定成長が続く限り、企業にそれだけの余裕があったし、また必要があったのでしょう。2008年のリーマンショック後の雇用に関する状況は、この余裕と必要が失われ、雇用法理に基づく本来は正社員を予定した扱いを非正規雇用者に及ばさなくなった結果ともいえます。裁判所が求める射程に則した扱いに変えて行ったのです。

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