GRIT!やり抜く変革マネジメント

熱い「想い」は科学的に変革へつなげよう! マネジメントソリューションズ 横江真由美氏

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 このようにビジョンと戦略を描く際には、多角的な質問を繰り返して、磨き上げていく必要があります。ビジョンと戦略を描く際に行うべき、主な質問を以下に挙げましょう。

・ 変革後のあるべき姿はどのようですか?(Vision)

・ 変革が必要な理由は?(Why)

・ 今、変革を実施しないとどうなってしまいますか?(危機感)

・ 変革で何が変わりますか?何を変えますか?(What)

・ 目標と達成時期は?(ゴール)

・ 影響が発生する組織やグループは?(重要なステークホルダー)

・ 変革による組織へのリスクは?(変革リスク)

 ビジョンが単なる手段を描いたものなのか、より適した手段があるかどうかなどを確認する際は、「変革が必要な理由は?(Why)」という質問が役立ちます。例えば「プロジェクトマネジメントツールの導入」はビジョンではありません。「変革が必要な理由は?」という質問の答えは、「効率的に新製品開発プロジェクトを推進する体制に変えなければ、メーカーとしての未来はない」などになります。間違っても「他社がプロジェクトマネジメントツールを導入したから」という答えにはならないはずです。

 「変革による組織へのリスクは?」という質問は、磨き上げた戦略を策定する際、それこそ熟考してください。ここでいうリスクは、「変革リスク(チェンジ・インパクト・リスク)」とも呼ばれるもので、いわば予想される変革の副作用です。「リスクなど特にありません」と答える社長の方もいますが、変革によって組織や仕事の進め方が変われば、従業員の役割や責任が変わります。必ず何か起きると考えて洗い出しましょう。

 ビジョンと戦略を磨き上げたら、経営陣や従業員などと共有します。磨き上げたビジョンや戦略には会社が目指すべき未来の姿と実現の道筋があります。それを見れば、経営陣や従業員の中から「仲間」が必ず出てきます。

変革リスクを軽く見てはいけない
 「変革リスク」は非常に重要なので、少し深く掘り下げて説明しましょう。これは変革成功の要(かなめ)になるもので、「変革とは、変革リスクに対処することだ」といっても過言ではありません。

 変革リスクには、従業員レベルの「心理リスク」と組織レベルの「環境リスク」の2種類があります。前者については、多くの書籍や記事(筆者の記事「『腹落ちしてない従業員』は、すぐ変革を忘れる」)で語られているので、ここでは後者の「環境リスク」について説明します。

 変革では、程度に大小の差はありますが、組織内の幅広い領域に影響が及びます。ビジョンや戦略、組織体制(役割責任とそれに伴うスキルを含む)、管理の仕組み(ビジネスプロセス、ルールなどを含む)、人事制度、経営層の行動などです。こうした従業員の外に原因があるリスクが「環境リスク」です

 環境リスクが顕在化すると、変革が失敗することもあります。ビジネスとITが一体化した昨今、業務ソフトウエアを使用して変革を行うケースが増えていますが、環境リスクへの対処を怠ると、業務ソフトウエアを導入したにもかかわらず、誰もそれを業務で活用しないといった事態に陥ります。

 例えば、顧客管理ソフトウエアを導入して全社で顧客情報を共有するプロジェクトでは、システムが完成しても、誰もそのソフトウエアに顧客の情報を入れようとせず、以前と同じように部門ごとに顧客情報をファイルで管理するといったケースがあります。原因は「部門ごとに売り上げを評価する」という評価制度で、社内の他部門に顧客が流れ、自部門の評価が低下することを現場が恐れたためでした。

 また、顧客管理ソフトウエアを利用する際には、新しくITのスキルも必要になりますが、努力してITのスキルを身につけても、人事評価に反映されないため、従業員にITスキルを身につける気持ちが出ないことも多々あります。

 変革を行う際は、こうした「環境リスク」と、従業員レベルの「心理リスク」を事前に洗い出して対処することが不可欠です。「誰が変革に抵抗するのか?」「抵抗する原因は何であるのか?」「組織の何に影響が出るのか?」「リスク対策として何を準備しておかないといけないのか?」――社長をはじめとする経営陣の方々は、自社のことなので、こうしたことはわかっているかもしれませんが、問題が発生してから右往左往しがちです。

 それは、過去の経験の延長で、変革リスクを軽く見て、うまくいくはずだと思い込んでいるためです。幅広い変革リスクについて、わずかでも顕在化しそうなものを前もって診断・洗い出ししておけば、変革によって問題が発生しても想定内のことなので、あわてることはありません。

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