東大卒棋士のAI勝負脳

15歳の「藤井聡太」はなぜ将棋に勝てるのか 片上大輔・将棋棋士6段

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■羽生戦で見せた強さの秘密

 プロの世界で通用する才能というものはこのように他のプロが思いつかないような手を示すことと、プロなら誰もが指せる当たり前の手を当たり前に指せることの両面がある。藤井はそのどちらも兼ね備えている。さらに言えばこの桂打ちにしてもこの場面になって初めて思いつくということでなく、数手前の局面からイメージして準備していたのは間違いない。

 佐藤天彦名人との対局では序盤で印象深い一手があった。飛車成りを受ける手が3通り、歩をどこに打つかの選択で藤井は一番低い位置に歩を受けた。私ならば、もう一段上を本命視しただろう。二段上に打つ手も有力であった。しかし微差ではあるがソフトは藤井の選択をより高く評価した。決定的だったのは、数十手も後になってこの選択が効いてきたことである。もちろんすべての手順を読み切って指し進めてきたということはありえない。しかし何の理屈もなくそのような選択をしたとも思えないのである。

 ただ藤井の指し手がいつもソフトの示す手と同じというわけではない。そもそも藤井がソフトと同じ指し手を選ぼうとしているとも私は思っていない。羽生善治竜王を破った時の将棋も急所の選択でソフトの示す手とは異なる場面が見られた。指し手の方向性はまるで違うのに、局面自体の評価は大きく変わらない、という場面にこそ藤井の強さが表れる。

 藤井はとにかく冷静でミスが少ない。「特別な平常心」という言葉を、彼の将棋を観戦するたびに私は思い浮かべる。いつも同じ気持ちで盤に向かい静かな心で集中しようと、棋士ならば誰もが思うことだが、いざそれを実行するのは非常に難しい。経営における重要な決断の場面でも同じではないだろうか。

 片上 大輔(かたがみ・だいすけ)
 将棋プロ棋士6段。
 1981年広島県出身、36歳。森信雄7段門下。東京大学法学部在籍中の2004年に4段昇段、プロ棋士としてデビュー。09年6段。13年から日本将棋連盟の理事・常務理事(17年まで)を務め、プロ棋士とコンピュータソフトとの対局「電王戦」などを担当した。また将棋界で34年ぶりの新タイトル戦「叡王戦」の創設にも携わった。14年から首都大学東京で非常勤講師を務めている。

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