中小企業の「見つめ直す経営」

老舗家業の源泉を見つめ直し次世代につなぐ~出立木工所~ 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 桑本 香梨氏

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 製材のノウハウは、原木の選別から製材、出荷まで、工程ごとに図を交えながら報告書に整理しています。例えば、原木を用途別に区切る工程です。カシは、1本1本曲がり方が異なるため、縦にまっすぐ割るだけでは木目に沿って製材できないのです。木目や内側にある節の位置を予想して無駄なく区切るためには、長年の経験やカシの性質についての深い知識が欠かせません。

 報告書では、職人たちの技術の高さを数値にして表しました。端的なものが返品率です。検品が最も厳しいドラムスティック用の板材でも3%前後。業界平均が7~10%ですから品質の高さは明らかです。返品が少ないうえに、カシを適材適所に加工して余すところなく使い切るので、歩留まり率も高くなっています。

目標を従業員と共有、カイゼンに生かす

 製材のノウハウを紙に起こしたことで、技術を従業員と共有し、会社の資産として後世に残せるようになりました。強みをわかりやすく示せたことで、取引先との価格交渉もしやすくなっています。

 また、目標も数値として明確に立てられるようになりました。例えば、利益率の低い

チップを極力減らして利益率の高い薪にできるように、チップ化率を8%から5%に減らす目標を立てました。カシを区切る技術を向上させるなどして目標をクリアし、今では3%を実現しています。

 目標は、従業員とも共有しています。それまでは1度も行っていなかったミーティングを、年6回全員で行うことにしました。ミーティングを通して、従業員同士のやり取りも増えました。それまでに培った知恵を共有する場ができ、作業の効率化にもつながりました。例えば、薪割り台の改善です。旧式のものは割った薪が下に落ちるので、拾い上げるたびに腰に負担がかかっていました。そこで薪が落ちないように台をつくったところ、生産効率が2割近く上がったといいます。

 カシの製材所は経営者の高齢化に伴う廃業が増え、近畿地区内では同社を含めて2社のみ、全国でも10社程度にとどまるそうです。4代にわたって積み重ねてきた歴史を次世代へ引き継ぐまで、出立さんは同社の知恵を枯らすことなく育み続けていってほしいと願うばかりです。

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 同社は、「知恵の経営報告書」の作成を通じて、まずは自社が蓄積してきた知恵や強みを明らかにしました。こうした定性面に加えて、返品率や歩留率などの定量的な指標を用いて技術力や生産性を数値化し、目標設定に活用することで、向かうべき方向性が明確になり、業績向上にもつながっています。

 同社の取り組みから学ぶべき点は、見つめ直すプロセスにもあります。外部の専門家の協力を仰いだという点です。報告書の作成に当たって、商工会議所に紹介を受けた中小企業診断士から、助言してもらっています。可視化とは事実に客観性をもたせること。専門性をもった第三者は、経営を見つめ直す大きな助けとなるはずです。

 ※本連載は、日本政策金融公庫総合研究所編『「見つめ直す」経営学―可視化で殻を破った中小企業の事例研究―』(2017年、同友館)の一部を抜粋・再編集したものです。(http://www.doyukan.co.jp/store/item_052842.html
桑本 香梨(くわもと かおり)
日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員。2004年早稲田大学法学部卒業後、中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。近年は中小企業の経営や景況に関する調査・研究に従事。最近の論文に「天候が小企業の景況に与える影響―「全国中小企業動向調査・小企業編」による分析―」(『日本政策金融公庫調査月報』2017年12月号)がある。

キーワード:経営層、管理職、経営、企画、ものづくり、技術、人材

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