中小企業の「見つめ直す経営」

老舗家業の源泉を見つめ直し次世代につなぐ~出立木工所~ 日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員 桑本 香梨氏

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 カシの製材一筋100年という企業が京都府にあります。出立浩之さんが経営する出立木工所です。4代目となった浩之さんは、100年続いてきた家業の強みを見つめ直すため、「知恵の経営報告書」の作成に挑みました。同社にとっての知恵とは何だったのでしょうか。そして報告書をどのように作成し、その結果何が見えてきたのでしょうか。

入社3日後に経営を任される

 同社の創業は1913年。始まりは、出立浩之さんの曾祖父がカンナ台にする良質なカシ材を求めて当地に移住したことでした。カシ材は堅く粘りがあるため、頑丈さが求められる商品に向いています。同社は原木を製材し、最終製品の工場に卸しています。ちりめんの織機にはじまり、ドラム楽器用のスティックや杵、傘やハンマーの柄など、時代に合わせて用途を変えながらも、一貫してカシ材を扱ってきました。

 浩之さんは、大学院卒業後、建設コンサルタント会社に就職しましたが、1998年、29歳のときに脱サラして帰省しました。家業を継ぐため、父の下で修業を始めようと思ったのです。ところが、浩之さんが戻って3日後に、突然父が倒れてしまいました。がんでした。医者から1年間の入院が必要だと言われ、浩之さんはいきなり経営を任されることになったのです。長年勤めていた従業員がいたので足元の受注を処理することはできましたが、原木の仕入れや納品前の最終仕上げまではできません。当時は景気が冷え込んでいたこともあり、業績は悪化し、赤字が積み上がってしまいました。

 取引先を増やそうと、2001年に木工所のホームページを開設しました。しかし、企業からの反応は1件もありません。代わりに、個人客から「ストーブ用の薪はないのか」と電話がかかってきました。薪ストーブが流行り出していたものの、薪を販売する会社はわずかだったようです。そこに事業機会を見出し、ストーブ用の薪を手がけることにしました。それまでの製材作業の繁忙期を避け、薪の加工は翌年の夏の閑散期に行うように工程を見直した結果、薪の品質も向上しました。時間をかけて乾燥できるためです。現在では薪の販売先は400世帯ほどに上ります。経営も軌道に乗り、浩之さんは2009年に父の後を継いで4代目に就きました。

外部からの提案で家業のルーツたどる

 日々の経営に明け暮れていた浩之さんは、あるとき、商工会議所の担当者から「知恵の経営報告書をつくってみませんか」と声をかけられます。人材や技術、組織力、顧客とのつながりなど、目に見えない強みを掘り下げて優位性や特異性を明らかにし、商品力向上や顧客開拓、仕事の効率化などを狙うものです。

 家業が100年続いてきた理由を明らかにしたい、先代たちの知恵を次世代に引き継いでいきたいとの思いから、浩之さんは挑戦することにしました。そして商工会議所に紹介してもらった中小企業診断士と、構成や分析方法について毎月打ち合わせを重ねました。古い帳簿をひも解き、父や従業員一人ひとりに話を聞き、5カ月かけて記録にまとめていきました。

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