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シニア社会に似合う「健康と死」を問う 松下博宣氏

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 余談だが、健康を定義し直すことの背後には、医療福祉政策に絡む課題もある。「健康」の概念を上記のように拡張すれば「健康な人々」が増え、医療費や介護費を抑制することにつながる可能性もある。団塊の世代が75歳を迎えるまでの今後10年間は、このような事情が原因になって「健康」の概念が操作されることのないよう、注意が必要だ。

終末期:クオリティー・オブ・デス(死の質)を問う

 健康な人でも、超健康な人でもいつかは死ぬ。それが人間の定めだ。死の訪れを予感する終末期の人生課題は「生きてきたことのまとめ上げ」であり、健康課題としては「その人にあった看取り、看取られ方のデザイン」ということになるだろう。

 死生学の先駆的研究者であるアルフォンス・デーケン(上智大学名誉教授)は、死ぬことと生きることは表裏一体、不可分の関係であるとして、元気に生きている時期からの「死への準備教育」(デス・エデュケーション)の重要性を説いている。死ぬことに対する準備は、生きてきたことのまとめ上げでもあり、それは死ぬことに対する準備にもなるのだろう。

 「生きてきたことのまとめ上げ」と簡単に言ってしまったが、終末期にはその方法論が問われることになる。正確にはエンディングのピリオドをいかに打つのかということだ。このピリオドの打ち方と看取られ方のデザインに関して、示唆に富む出来事があった。

 ベルギーのエミール・パウエルさんは、94歳の時にヨーロッパ・インドア・アスレチック選手権に出場し、60メートル走で優勝するほどの陸上選手だった。その後、末期の胃がんと診断されてからは寝たきりの生活になってしまった。そして2014年1月、95歳で「安楽死」を選択し、家族や友人約100人とシャンパンで乾杯をした後に旅立った。

 最後の言葉として「友人全員に囲まれて、シャンパンと共に消えていくのが嫌だなんていう人がいるかい?」と語ったそうだ。

 パウエルさんがいたベルギーにおいて、「安楽死」は患者本人の明示的な要請にもとづき、医師が致死量の薬剤を患者に投与することとされる。この行為は「医師による自殺幇助」にあたり、多くの国では違法だが、オランダ、ベルギー、米国の一部の州などにおいて合法化されている。ベルギーでは2002年に安楽死が合法化され、2012年には1432件の安楽死が報告されたという。

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