要件4「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であること
最後の要件は、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であることです。たとえばスマートフォンや車といった工業製品のデザインは、これらのどれにも属さず、著作物には当たらないと一般的には考えられています。ちなみに、こういったものは、意匠法という別の法律に基づく「意匠権」という権利で保護を受けることが通常は想定されています。
この要件が単体で実務上問題になることはこれまでほとんどなく、その意味で4要件の中では最も影が薄い要件でした。しかし、専門的な論点になりますので割愛しますが、家具などの実用品をはじめとする、いわゆる「応用美術」と呼ばれるものの著作物性を考えるに当たって、この要件が最近にわかに注目を集めています。
以上の4要件を全てクリアすれば、「著作物」として「著作権」の対象となり、逆に、どれか一つでもクリアできないものは「著作物」とは認められず、「著作権」を主張することはできません。
著作権という権利は、著作物の利用をコントロールできるという、ある種強力な権利ですので、利用する側から見れば、あるコンテンツが著作物に当たれば、原則自由な利用はできないという話になります。したがって、何でもかんでも著作物だということになると、我々の社会生活は非常に不便で窮屈なものになり、一種言葉狩りに近い嫌な世の中になってしまいます。そして何より、表現の自由に対する大きな制約になりかねません。そこで、著作権法は4つの要件を定め、そうならないよう一応の歯止めをかけているわけです。なお、著作権法が著作物の要件として定めているのは、これら4つの要件だけであり、これ以外に特段の要件はありません。たとえば、©表示(マルシー表示、コピーライト表示)の有無は著作物かどうかとは関係ありません。
弁護士(森・濱田松本法律事務所所属)。1976年群馬県前橋市生まれ。99年早稲田大学法学部卒業、2001年弁護士登録。09年文化庁著作権課出向(著作権調査官)。主な著書に『著作権法コンメンタール別冊平成21年改正解説』、『著作権法コンメンタール全3巻』(共著)など。
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