はじめての著作権法

「倍返しだ」「同情するならカネをくれ」は著作物? 弁護士(森・濱田松本法律事務所所属) 池村 聡氏

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 この連載では著作権法に詳しく弁護士で、文化庁で著作権調査官として働いた経験もある池村聡氏が、著作物とは何かについて解説します。前回は著作物について「(1)思想又は感情を」「(2) 創作的に」「(3) 表現したものであって」「(4) 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」といった4つの要件を示し、要件1について説明しました。今回は残りの要件2~4について解説します。

要件2「創作的」であること

 次に、2つ目の要件を見てみましょう。「思想又は感情を創作的に表現した~」とありますので、「創作的」であると評価されるものでなければ著作物とは評価されません。もっとも、「創作的」とはいっても、そこまでレベルが高いクリエイティビティやオリジナリティまでは要求されず、その人なりの何らかの個性が発揮されていればそれで十分だと理解されています。

 一方で、誰もが思いつくようなありふれた表現や、誰かの作品を完全コピーしたり、またはほとんどそれに近いような形でパクったりするなど、オリジナリティが皆無なものは、「創作的」ではないという理由で、その人の著作物とは認められません。誰かの作品を完全コピーしたという意味では、江戸時代の浮世絵を少しだけキレイにしてお豆腐のパッケージ用に描いたイラストは創作的ではなく著作物ではないとされた裁判例があります。

 誰でも思いつくありふれた表現という意味では、たとえば、「都道府県魅力度ランキング2016で群馬県は45位で栃木県、茨城県より上位でした。グンマー万歳!」という文はどうでしょう?

 前回、要件1のときに見た例文(「都道府県魅力度ランキング2016で群馬県は45位で栃木県、茨城県より上位でした。」)と異なり、「グンマー万歳!」という群馬関係者の喜び爆発とでもいうべき「感情」が含まれていますので、一応要件1はクリアすると言えそうです。しかしながら、この程度の文は誰でも思いつくありふれたものであり、「創作的」とは言えませんので、要件2はクリアできず、著作物とは認められません。

 こうした観点からは、「じぇじぇじぇ」(NHK『あまちゃん』より)、「同情するならカネをくれ!」(NTV『家なき子』より)、「やられたらやり返す、倍返しだ!」(TBS『半沢直樹』より)、「僕は死にましぇん!」(CX『101回目のプロポーズ』より)、といった往年の名(迷?)台詞は、いずれもインパクトという意味ではかなりの破壊力を持つ台詞ではありますし、事実、我々の心に深く刻み込まれてはいますが、落ち着いて字面だけを見てみれば、いずれもありふれた表現と考えられますので、これら台詞単体としては著作物とは言えません。

 同様に、「空前絶後の~」「欧米か!」といったいわゆる一発ギャグ(一発芸)の類も、通常は著作物とは言えないでしょう(一方で、それなりの長さをもったコントや漫才は著作物と言えますし、RADIO FISH『PERFECT HUMAN』クラスの大ネタになれば、当然立派な著作物です)。

 最後に、ある小説がありきたりのストーリーで全然感動しないとか、ある音楽が耳障りで不快であるとか、あるゲームがクソゲーだとかといったような、「作品としての価値や評価」は、著作物かどうかとはまったく関係ありません。もし作品としての価値や評価が高いもののみを著作物として保護するとしてしまうと、最終的には裁判所がある作品の芸術性の有無や程度といったものを判断することになり、その結果、特定の価値観を国民に押し付けることになりかねません。こうしたことが起きぬよう、著作権法は芸術性等に対しては価値中立的なのです。

要件3「表現したもの」であること

 続いて、3つ目の要件です。「思想又は感情を創作的に表現した~」とありますので、著作物として認められるためには、「表現したもの」でなければならないことが分かります。

 言い換えると、作品のイメージについて、「アイディア」として頭の中であれこれ膨らませているだけではダメで、それを実際に文章やイラスト、楽曲、映像といった形で外部に「表現」して初めて著作物としての資格を得ることができるというわけです。

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