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ブロックチェーン、電気発明以上に破壊的技術 ボストン・コンサルティング・グループ 佐々木靖シニア・パートナーに聞く

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■ビジネス環境が一変の可能性、備え欠かせず

――紹介いただいたユースケースの中で、ボストン コンサルティング グループに相談が持ち込まれるケースで目立つものはありますか。

 サプライチェーンマネジメントについての相談を受ける場合が増えている印象です。自動車のサプライチェーンを例にとると、自動車メーカーには鋼板などの原材料だけでなく、協力企業から各種部品が納入され、自動車メーカーだけでなく協力企業でも在庫管理しています。現在、在庫管理や取引を紙ベースで進めているところは多々あります。ここにブロックチェーンを用い、管理を効率化しようというものです。

 ブロックチェーンを使うことで、管理に要するコストを大きく削減できる可能性はかなり高いと考えています。しかしながら、ブロックチェーンの採用に踏み切っていいかといえば、簡単にゴーサインを出せません。現状の在庫管理や取引の工程で、事業を成り立てている企業があるからです。こうした企業は現状のサプライチェーンで必要なピースであり、効率化のために締め出してもいいのかという、効率化追求とは異なるビジネス上の判断が生じます。

 しかし、競合他社が効率化追求を優先し、ブロックチェーンを活用してサプライチェーン管理を刷新すると、競合他社に圧倒的なコスト優位性を作られてしまいかねません。意思決定は極めて難しい状況に追い込まれます。

 こうした、既存の管理方法を刷新する際に浮上する課題は、自動車分野に限ったことではありません。既存のサプライチェーンマネジメントや管理手法を用いている様々な分野の企業でも同様の課題が生じるでしょう。

――だからこそ、実証実験によって「どのくらいの影響があるのか」を見積もっておく必要があると。

 そういうことです。競合がブロックチェーンを使ってビジネス上の非効率なところにメスを入れようとしたときに、自社がそれに追随できないのでは競合に取り返しのつかない差をつけられてしまいます。そういう事態にならないように、ブロックチェーンが分かる技術者を自社内に確保し、ちゃんと実証実験し、変化への準備をしておく意義はあります。そうしておけば、世の中の動きに対し、すぐにでも追随できるでしょう。実際、各社は「いざというとき」に乗り遅れないように、という意識を持ちつつ実証実験を進めています。

――企業にとっては、非常に悩ましいところですね。ブロックチェーンの効果はありそうだが、今の仕組みを変えるには痛みを伴う可能性があり、簡単には踏み出せない。でも誰かが踏み出すと、ビジネス環境が一気に変わる可能性すらある。

 おそらく、真剣にブロックチェーン活用の実証実験を進めている企業ほど、大きな変化への準備という側面が強いと思います。ブロックチェーンが、今すぐにビジネス環境を大きく変えるようになると、正直想定していないでしょう。しかしながら、現段階から準備しておかないと近い将来大きな問題に直面するとの危機意識が、実証実験の関係者から伝わってきます。

 実証実験の内容については、以前に比べてブロックチェーンの本質を突いたケースが出てくるようになりました。1年前は、「本当に大丈夫か?」と、首を傾げたくなるケースも散見されました。「はやっているから」という意識から、実証実験するようなケースも見受けられました。前述したパブリック型とプライベート型の設定の違いについて、おそらく半年前、1年前はあまり議論がなされていなかった印象です。何のためにブロックチェーンを使うのかが曖昧だったり、プライベート型の話とパブリック型の話が混同された議論が交わされたりといったことが結講見受けられました。

 それに対して現在は、ブロックチェーンに関する文献もそろってきており、理解は深まってきたと感じています。何を問題として捉えて、どこをブロックチェーンで効率化すればいいのかという、かなり地に足の着いた議論になりつつあります。

――5年後や10年後、ブロックチェーンは社会にどのようなインパクトを与えていると推測していますか。

 なかなか予測するのは難しいのですが、5年以内に大きな変革を起こしているかというと、あまり想定はできないですね。ただし、10年、20年といった長期的なスパンで見ると、大きなインパクトを社会に与えていると考えています。

 10年超で起こり得る変化の1つに、私は証券決済システムがあると予測しています。証券の取引がすべてブロックチェーンを使うとなった瞬間に、取引所は不要になり、物事が大きく変わったという印象を世間の多くの人たちが実感することでしょう。「そういえば昔、証券取引所というものがあったな」と過去の記憶を思い返し、その変化の大きさを感じることでしょう。ブロックチェーンのインパクトは、過去を振り返ったときの変化の大きさから実感するようなものなのかもしれません。

佐々木 靖(ささき・やすし)氏 BCGシニア・パートナー&マネージング・ディレクター
慶應義塾大学経済学部卒業。INSEAD経営学修士(MBA)。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士(MSc)。日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、現在に至る。BCG金融グループのアジア・パシフィック地区リーダー、および保険グループの日本リーダー。共著書に『デジタル革命時代における保険会社経営』 (一般社団法人 金融財政事情研究会)、『BCGが読む 経営の論点2018』(日本経済新聞出版社)他。

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