AI現場力

「デジタル大部屋」で能力を進化させる ローランド・ベルガー日本法人 代表取締役社長 長島 聡氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 ひとつ参考になるのが、オークションやショッピングサイト、モバイル向けポータルサイトなどを運営するDeNAのゲーム開発現場である。

DeNAのゲーム開発現場

 DeNAの開発者たちは、あるゲーム開発プロジェクトでこんなミッションを与えられた。

 ――ターゲットユーザーは30~40代。かつてゲームを楽しんでいた世代だ。忙しい日々の生活に追われて、現状はゲームからすっかり遠ざかっている。もちろん、ゲームが嫌いになったわけではないが、とにかく遊んでいる暇はないのだ。こうしたユーザーを再びゲームの世界に引き戻し、留まり続けてもらえるようなコンテンツを開発せよ!――

 開発者たちがまず着目したのは、スマホを使って短時間で楽しめるのは、どのようなコンテンツかということだった。忙しい人でも、移動中などのスキマ時間に少し遊べば、気分転換になる。とはいえ、短時間で遊ぶとなると、そうそう大掛かりにはできない。かといって、簡単すぎればすぐに飽きてしまい、離れていくだろう。使いやすく手軽だが、繰り返し遊んでもらうにはどうすればいいか――開発者たちはユーザー心理に配慮しながら、最も効果的な仕掛けを探求していった。

 こうして開発されたのが、数分程度で1ゲームを終えられるコンテンツだ。パズルゲームなどコンテンツはシンプルだが、適切なタイミングでコインやアイテムをためることができ、空いた時間に何となくリピートしてしまう。全ユーザーの5%を占めるロイヤルユーザー向けには、他の人から「すごいね」といわれたり、「ちょっと手を貸して」と頼まれたりする機会を用意した。こうしたロイヤルユーザーの多くは、ゲームを交流の場として捉えている。他のゲーマーと交流できる経験は重要で、そうした場で褒められ、頼りにされると、続けようというモチベーションが高まるのだ。

 余談になるが、この種の開発プロジェクトを行うと、日本人の開発者と、外国人の開発者とでは行動パターンがまったく異なるそうだ。外国人は定時になると仕事を切り上げて帰っていくが、日本人開発者は遅くまでなかなか帰らない。ヘビーユーザーに届く内容とライトユーザーに届く内容はまるで異なるため、パラメータのいくつかを少し変えただけで、課金対象となる要素への反応は大きく変わる。日本人開発者は細部までこだわり抜いて、パラメータを調節し、つくり込むという。その結果、ひと晩で1億円も売上に差が出ることもあるそうだ。

 時間単位で指示されたことだけやればいいという発想ではなく、ユーザーを楽しませたい、ゲームの価値を高めたい一心で全力投球ができるのは、日本人ならではの特徴だ。日本企業の強みとしてぜひとも活かしたい部分である。もちろん、決して残業を推奨しているのではなく、組織の知恵を共有して取り組みの発射台を高くすることで定時に終えることを目指したい。

長島聡著 『AI現場力』(日本経済新聞出版社、2017年)6章「AIで現場力を高める組織体へ」から
長島 聡(ながしま さとし)
ローランド・ベルガー日本法人 代表取締役社長、工学博士。

早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手を経て、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギー、消費財などの製造業を中心として、グランドストラテジー、事業ロードマップ、チェンジマネジメント、現場のデジタル武装など数多くの プロジェクトを手がける。特に、近年はお客様起点の価値創出に注目、日本企業の競争力・存在感を高めるための活動に従事。

以下のアドバイザーを務める。アスタミューゼ、エクサインテリジェンス、カイゼン・マイスター、リンカーズ、カブク、ドリーム・アーツ、エクシヴィ、ベッコフオートメーション

一般財団法人素形材センター「素形材産業を含めた製造基盤技術を活用した『稼ぐ力』研究会」委員、経済産業省「ファッション政策懇談会」委員、一般財団法人企業活力研究所ものづくり競争力研究会委員。

自動車産業、インダストリー4.0/IoT をテーマとした講演・寄稿多数。近著に『日本型インダストリー4.0』(日本経済新聞出版社、2015年)。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。