キャッシュフリー経済 日本活性化のFinTech戦略

高額紙幣廃止で脱現金、1万円札は紙幣残高の87% 野村資本市場研究所 研究理事 淵田 康之氏

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 世界における決済の潮流は、「いつでも、どこでも、誰とでも、様々な手段で」という時代に向かっている。現金に縛られた経済活動から、キャッシュフリー(脱現金化)経済への転換である。最終回では、キャッシュフリー化を推進するための現金利用抑制策について説明する。

 様々なメリットのあるキャッシュフリー化の実現には、電子決済促進策と現金利用抑制策の2つを講じていく必要がある(表1)。後者を実施するには、代替手段となる電子決済の普及が不可欠であり、議論も電子決済化の進め方が中心となるが、後者の政策を軽視してはならない。ここでは後者について整理しておこう。

表1 キャッシュフリー化の推進につながる政策

国際的な脱現金の動き

 現金の利用抑制は、国際的な要請となっている。ユーロポールのレポートを紹介したが、現金の存在が犯罪者に恩恵をもたらす状況には、20年以上前から警鐘が発せられている。

 1989年、パリで開催されたアルシュ・サミットにおいて麻薬問題へのアクションが合意されたことを受けて、マネー・ロンダリングに関する金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)という国際組織が設立された。

 FATFにおいては、2001年の米国同時多発テロ事件以降、麻薬関連のマネー・ロンダリング対策のみならず、テロリストへの資金供与対策も重視されるようになっている。

 FATFは一連の勧告の中で、金融機関に対して匿名口座の禁止や疑わしい取引の届け出などを義務づけている。しかしこれらの対策は、現金による取引には有効ではないため、国境における現金の移送を検知すること、また各国が、現金の利用に代わる手段、すなわち小切手やカード、銀行振込など、記録の残る形の資金管理手法の導入を推進していくことも求めてきた(※1)。

(※1)1990年に最初に発表された40の勧告のうち、勧告23及び勧告25。

 しかしその後、これら勧告の成果があがっているとは言えず、犯罪者による現金の利用がますます深刻な問題となっている。そこで、より本格的な現金利用抑制策の導入が求められるようになっているのである。

高額紙幣の廃止

 不正な取引は高額紙幣を用いて行われることが多いため、まず高額紙幣の廃止(demonetization)が有効な施策として、各国で導入されつつある。

 FATFも2005年に発表したベストプラクティスにおいて、「高額紙幣が、密輸者が輸送する現金のサイズを大幅に削減し、摘発を難しくするのに使われているため、各国は高額紙幣を廃止することを考慮すべきである」と提言している(※2)。

(※2)FATF, "International Best Practices: Detecting and preventing the cross-border transportation of cash by terrorists and other criminals," February 2005.

 同文書の2010年改訂では、高額紙幣を発行している国に対し、通貨当局が高額紙幣の利用をマクロレベルで追跡することをベストプラクティスとして紹介している。高額紙幣のシリアルナンバーを自動的に検知し記録する装置やRFID(※3)などの利用により、高額紙幣を検知し追跡すること、さらに電子決済の利用を推奨することも考えられるとしている(※4)。

(※3)Radio Frequency Identifierの略。ID情報を埋め込んだRFタグ(ICに通信用のコイル状のアンテナを接続したもの)が、リーダー・ライター側からの電磁波や電波によって作動し、両者間で接触なしに情報をやりとりすることが可能な仕組み。タグを取り付けた多数の物品の情報を、まとめてスキャンすることも可能である。

(※4)FATF, " International Best Practices: Detecting and preventing the cross-border transportation of cash and bearer negotiable instruments," February 19, 2010.

 高額紙幣を実際に廃止した国も少なくない。直近、最も話題となったのはインドであろう。2016年11月8日、モディ首相が、夜の8時15分に緊急テレビ会見を行い、最高額紙幣である1000ルピー(日本円で1700円程度)紙幣とその次に高額な紙幣である500ルピー紙幣を、約4時間後の午前零時より利用不可とし、年末までに銀行などに預けなければ紙屑になると宣言した。

 この措置は、これら高額紙幣の偽造が問題となっていたことの他、高額紙幣の存在が、不正蓄財や脱税、汚職などの温床ともなっていたことへの対応である。

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