キャッシュフリー経済 日本活性化のFinTech戦略

現金から自由な世界へ日本が向かうべきワケ 野村資本市場研究所 研究理事 淵田 康之氏

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 世界における決済の潮流は、「いつでも、どこでも、誰とでも、様々な手段で」という時代に向かっている。現金に縛られた経済活動から、キャッシュフリー(脱現金化)経済への転換である。現金決済比率の高い日本は、キャッシュフリー化の恩恵が最も大きい国だ。第1回では、キャッシュフリー経済が重要になっている背景を説明する。

キャッシュフリーで「おもてなし」

 2016年の訪日外国人観光客数は、2400万人を超えた。5年連続の増加で、2000万人超えは初めてである。訪日外国人観光客が消費した金額も、前年比7.8%増加し、3兆7000億円に上る。政府は、訪日外国人観光客数を2020年には4000万人、2030年には6000万人とする目標を掲げている。消費額の目標は、2020年には8兆円、2030年には15兆円である。

 2020年と言えば、オリンピック・パラリンピック東京大会が開催される年である。大会招致のキーワードは「おもてなし」であった。オリンピック・パラリンピックという一大イベントへの対応はもちろん、その後も継続的な「おもてなし」の向上が重要となる。

 「訪日客は何に困ったか?」というアンケートによれば、トップ3が、無料公衆無線LAN環境、コミュニケーション、公共交通の経路や利用方法で、これらに次ぐのが両替やクレジットカードの利用環境である。地方では、無料公衆無線LAN環境に次いで、両替やクレジットカードの利用が、困ったことの第2位に挙げられている。

 今、あらゆる消費サービスの現場で、「Customer Experience」が重視されている。「顧客体験価値」という訳語もあるが、この記事では簡単のため「顧客体験」と訳そう。商品やサービスの値段が安いか、品質が良いかだけでは消費者は動かない。商品やサービスと出合い、選択し、利用や消費していく一連のプロセスにおいて、ストレスがないか、心地よいか、さらには感動があるかなど、商品やサービスが提供する体験がカギとなっている。「おもてなし」にも通じる考えである。

 大幅な増加が見込まれる訪日外国人が、お金の面でストレスを感じる場面を少しでも減らすために、キャッシュフリーで過ごせる環境の整備を急ピッチで進めるべき時と言える。

ユビキタスな決済へ

 1964年のオリンピック東京大会に向け、わが国が導入を急いだのがクレジットカードであった。しかしそれから半世紀、日本にやってくる外国人の母国では、クレジットカードは必ずしもキャッシュフリー決済の主役ではない。

 国別の観光客数を見ると、最も多いのは中国からの観光客(2016年は約640万人)である。中国では、クレジットカードよりも、アリババという電子商取引大手が提供するアリペイや、インターネット・サービス大手のテンセントがSNSサービスの一環で提供するウィーチャット・ペイメントという、スマートフォン(以下、スマホ)での決済が、はるかにポピュラーな方法となっている。

 スマホを使って、インストア決済(実店舗での支払い)ができれば、面倒な両替も必要ないし、クレジットカードを店員に渡すことに伴う不安もない。インストア決済だけでなく、例えば夕食代をまとめて払った友人に、P2P(Person to Person)送金することもできる(※1)。銀行名、支店名、口座番号を聞く必要はない。スマホの連絡先から友人を宛先として選択し、金額を入力して送金ボタンを押すだけである。もちろん、スマホでの電子商取引の決済にも使える。

(※1)決済とは、一般に当事者間の債権・債務を清算(解消)することを意味する。一方、送金は、債権・債務の決済を目的としない資金移動(ただし現金の輸送を伴わない)も含まれる。この記事では、特に区別する必要がなければ、送金も含めて決済と呼ぶ場合もある。また決済のうち、証券やデリバティブ取引の決済は、通常の財・サービスの売買などに伴う決済とは異なる独自の仕組みが発展しているため、この記事における決済の議論は、証券やデリバティブの分野を含まないものとする。

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