キャッシュフリー経済 日本活性化のFinTech戦略

現金のコスト、米は年2000億ドル近くとの試算も 野村資本市場研究所 研究理事 淵田 康之氏

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 世界における決済の潮流は、「いつでも、どこでも、誰とでも、様々な手段で」という時代に向かっている。現金に縛られた経済活動から、キャッシュフリー(脱現金化)経済への転換である。第2回では、キャッシュフリー化の多様なメリットを説明する。

現金のコストからの自由

 連載第1回では、来るべきキャッシュフリー経済の一端を紹介したが、想定されるメリットについて整理してみよう。

 まず、現金の利用に伴うコストやリスクから解放されるというメリットがある。そもそも現金を製造するには、コストがかかる。硬貨であれば金属、紙幣であればそれに適した素材が必要である。またそれらの原材料を現金として利用するうえでの、加工のコストが必要である。この場合、容易に偽札などが作成されないように、精緻なデザインと製作技術が必要となる。原材料の調達、輸送、加工の過程には、環境への負荷も伴う。

 現金の輸送や保管、利用のコストも大きい。現金を数える必要もあるし、お釣りも用意しなければならない。これらに、盗難などを予防するためのセキュリティ・コストも上乗せされる。各種のコストをかけても、紛失や盗難、火災により滅失するコスト、あるいは利用の過程で汚損し、再発行するコストの発生は避けられない。

 以上に加え、近年、現金の重要な問題として認識されるようになっているのは、先述の地下経済のコストである。

 現金のコストの試算としては、タフツ大学の研究チームによる調査がある。これによると、米国の場合、現金のコストは年間2000億ドル近く、名目GDPの1%に上るという(※1)。この調査では、以下のように現金のコストを、家計、企業、政府というそれぞれの経済主体に分けて推計している。

(※1)Bhaskar Chakravorti & Benjamin D. Mazzotta, "The cost of cash in the United States," The Institute for Business in the Global Context, The Fletcher School, Tufts University, September 2013.

 まず家計にとってのコストは、約430億ドル。その内訳として大きいのは、ATMで現金を引き出すために要する時間である。すなわち米国の個人は、ATMまで出かけていって現金を引き出すのに、平均すると毎月28分費やしているという(行列待ちの時間はカウントしていない)。平均賃金を勘案してこの機会費用を計算すると、310億ドルに上る。

 またATMを利用する際の手数料や、小切手を現金化する際の手数料が、これに続いて大きなコストとなっている。

 注目されるのは、低所得者層ほど現金に依存する傾向が強く、現金のコストをより多く負担しているという指摘である。現金は逆進的な課税と同様の効果を持ち、格差拡大につながるという。

 次に企業にとってのコストは、年間550億ドルである。このうち400億ドルが、小売業界における盗難のコストである。盗難予防のためのコストも大きい。

 またスモール・ビジネスほど、現金の取扱いに伴う労務コストの負担が大きく、その一方で、キャッシュフリー決済導入のメリットに関する理解不足も強いという。

 最後は政府にとってのコストである。これは1000億ドル以上と、個人や企業に比べて倍以上の大きさとなっている。この内訳には、硬貨や紙幣の製造・輸送などのコストも含まれるが、これは2012年の場合12億ドル程度である。

 彼らが推計する政府にとってのコストのほとんどを占めるのは、地下経済活動の結果、失われる税収である。現金の存在が、政府が捕捉できない経済活動を可能としているのである。

 米国の内国歳入庁(Interrnal Revenue Service:IRS)によれば、2006年時点で過小に報告されている税金は3760億ドルであり、これは現在の価値では約4000億ドルである。このうち、少なくとも4分の1が現金取引の結果、捕捉できない部分と推定され、1000億ドルという数字がコストとして導かれている。

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