デジタル化で飛躍するASEAN

日本企業のタイ拠点、デジタル化が急務 日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 大泉啓一郎氏に聞く

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 東南アジアでデジタルイノベーションが爆発的に進んでいる。交通インフラが整っていない、銀行口座を持つ人が少ない――。先進国に比べ遅れたインフラ整備を逆手に取り、スマートフォンやタブレットを駆使したデジタルサービスが一足飛びに普及しているのだ。大きく変貌するASEAN(東南アジア諸国連合)デジタル市場の最前線を紹介していく。

 ASEANの中でも有数の経済規模を持つタイが、国をあげて産業のデジタル化を進めている。名付けて「タイランド4.0」。首都バンコク周辺を中心に、多くの生産拠点を集積してきた日本企業にとっても影響は大きい。タイが目指す産業のデジタル化とはどんな姿なのか。日本企業はどう対応し、成長につなげていけばよいのか。アジア経済論が専門の日本総合研究所 調査部 上席主任研究員の大泉啓一郎氏に聞いた。

課題が多いほどビジネスも活発

――東南アジアでは経済のデジタル化が急速に進んでいるようです。その背景と、日米欧など先進国との違いは何でしょうか。

 背景としては、コンピューターの処理能力向上、インターネット環境の整備、そして何より携帯電話の爆発的な普及があげられます。例えば、ASEAN諸国の携帯電話の契約件数(100人あたり=2016年)をみると、タイやシンガポールなど4カ国が日本(129.8)を上回り、経済規模の小さいカンボジアも日本並みに普及しています。しかも、中国製の低価格品の登場により、スマートフォンへの買い替えが進んでいることがポイントです。ラオスでも農民がスマホで最新の音楽を動画で楽しむようになっているほどです。

 国連貿易開発会議(UNCTAD)は2017年の投資リポートで「The Digital Economy(デジタル経済)」を取り上げ、「デジタル経済の機会・課題は途上国にとって、とりわけ重要である」と指摘しています。デジタル技術の開発は引き続き先進国が主導しますが、その活用は世界中どこでも誰でも可能になります。これからはIoT(Internet of Things)でなく、IoEEE(Internet of Everything,Everywhere,Everytime)の時代と言えます。

 かつてはデジタル技術の普及格差による「デジタル・デバイド」が心配されました。しかし、今やデジタル格差は急速に縮まり、世界銀行は「デジタル・ディビデント」つまりデジタルの配当を世界中の人々が受け取っているとしています。デジタル技術が途上国の社会的課題の解決に役立つ、もっと言えば、課題が多いほど新たな技術・サービスの開発が進む。アジアでスタートアップが勃興する様子をみると、日本企業はもっとデジタル化がもたらす変化の大きさに敏感になるべきだと思います。

――ASEAN各国の政府はどんなデジタル政策を進めているのでしょうか。中でも、日本企業とつながりが深いタイの状況を教えてください。

 堅調な経済成長が続くASEANですが、タイやマレーシアなど所得水準がある程度高くなっている国では成長率が鈍化傾向にあります。いわゆる「中所得国の罠(わな)」です。天然資源の活用や外資企業の誘致によって中所得国になったが、それまでの成長路線に固執して産業構造の転換を怠ると先進国への移行が難しくなるというものです。

 そこで、タイ政府は中所得国の罠からの脱出を目的に「タイランド4.0」と呼ぶ産業高度化戦略を打ち出しました。これまでの発展段階を、農村社会・家内工業(1.0)、軽工業(2.0)、重工業(3.0)と分類し、これから目指す成長の姿として、ターゲット産業・持続的な付加価値の創造を掲げました。

 具体的には育成対象として10業種を選び、短・中期的には次世代自動車、スマートエレクトロニクスなど、長期的にはロボット、バイオ燃料・バイオ化学などを重点的に伸ばす意向です。その核となるのがデジタル技術であり、デジタル経済社会開発の目標として、すべての国民がデジタル技術にアクセス・利用できる環境を整え、2036年までにグローバル・デジタルの先頭に立つことをうたっています。