日本的デジタル化の落とし穴

日本のイノベーションを阻む壁とは 第1回 為末大、中藪竜也、関口和一の3氏による鼎談

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司会 最近でこそ、日本でも学生が起業するスタートアップが増えてきましたが、まだまだ大企業志向は強いですね。規模の大きな仕事がやりたいと思っているのでしょうか。

為末 日本は数十億円規模のビジネスを作るのは得意だという話を聞いたことがあります。

関口 そうですね。日本企業はゼロから1を生むのは苦手だが、1を10や100に増やすのは得意だと言われます。しかし、100を1万にすることができない。フェイスブックやアマゾンのようにスケールアップできないゆえんです。また、ベンチャー経営者は若い時から他流試合をするので鍛えられていますが、大企業の経営者はトップになるまではずっと組織のパーツとして仕事をしていますから、社長になった後もリニアに発想し、大胆な挑戦ができません。その意味では大企業にも社員が若くて感性が豊かな時期に他流試合をさせる文化が必要でしょう。

日本の社長はオペレーター?

中藪 日本企業のキャリアパスを考えると、オペレーターとして評価される人が上に上がってきました。トップに必要な洞察力、交渉力、コミュニケーション能力を評価される、あるいは鍛えられ場面は少ないですね。ですから社長になってからもオペレーターとしての能力を発揮して、効率よく事業を進めることはできますが、爆発的に事業を伸ばす力は生まれにくい。そういう構造ではないでしょうか。

関口 日本の大企業のトップは、ほとんど前任者が決めます。結果的に前任者の事業を否定することができず、古いものを壊して新しいイノベーションを起こしにくい。その点、オーナー経営者は自分で決めたことですから、方向転換もしやすい。日本企業も創業者がトップを務めていた時代は強かったといえますが、サラリーマン経営に移行してから活力が損なわれるようになった。今、中国や韓国の企業も2代目、3代目に変わろうとしています。日本企業だけでなく、彼らも今後、競争力を維持できるかどうか、要注目です。

司会 為末さんは他流試合をどんな風にやっていたのですか。

為末 アスリートはメディアなどで取り上げられるので、会っていただけることは多い。そこは恵まれていますね。その環境を生かすかどうかは選手次第です。それと、選手にとって重要なのは、知っている人を知っていることです。自分の知能には限界がありますから、付け焼き刃の知識より、すぐに聞ける人脈を作っておく方がいい。引退後に新しいキャリアをスタートさせる時にも役立ちます。

 私が大事にしている概念にブリッジングがあります。人と人、人と自分をつなぎ、何か新しいモノを生み出す。そのためには、自分がやってきたことを普遍化して説明できることが必要です。例えば、陸上という言葉を使わずに、自分がやっていることを説明できるかどうか。物事を抽象化して説明するには違う世界を知っていることが必要で、それには人に会っているか、本を読んでいるか、2つの方法しかありません。本質をつかむとは、いろんな世界を知り、そこに共通点を見いだすことから始まるのではないでしょうか。

中藪 この連載では今後、日本企業や日本社会が飛躍するためのさらなるイノベーションのカギとなるであろう様々なキーワードを取り上げ、対談の形で掘り下げていきます。組織や人材、マーケティング、AI、IoT、ブロックチェーンなどです。デジタル化の向こうに何があるのか、これからの社会に本当に必要なものは何なのか、本質に迫れればと思っています。ご期待ください。

キーワード:経営、企画、人事、技術、製造、経営層、管理職、イノベーション、ICT、グローバル化、IoT、AI、ものづくり

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