日本的デジタル化の落とし穴

日本のイノベーションを阻む壁とは 第1回 為末大、中藪竜也、関口和一の3氏による鼎談

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司会 人材育成の話にも触れたいと思います。為末さんは現役時代から独自の練習法を編み出して結果を出し、引退後は起業家としても活躍されています。上司の指示がなくても自立して動ける、まさに理想の人材だと思いますが、ご自身では何が要因になっているとお考えですか。

「考え始めの谷」をどう乗り切るか

為末 理想の人材かどうかはともかく、私の場合、陸上を始めた時から日本の体育会的なシステムと遠い場所に居られたことが大きいかなと思います。中学の顧問の先生が教育を専攻していて、部活の最初に座学から仕込まれました。もう1つ、陸上選手が普段どんな人と話すかというと、95%は同じ競技の人だと思いますが、私は3割くらいは別の世界の人と話すようにしていました。それが好きだったということと、若手が台頭してきて普通にグラウンドに居るだけでは勝てないんじゃないかという焦りからですが(笑)。

 それと、現役の時にコーチを付けなかったこともあります。自分で考えてやるようになると3~4年結果が出るまでに時間がかかる。私は「考え始めの谷」と呼んでいるのですが、人の指示に従ってきた選手が自分で考え始めても、すぐには結果が出ません。しかし、日本のシステムでは中学、高校、大学とだいたい3年ごとに環境が変わる上に、セレクションで勝ち抜かないといけないので、谷から抜ける前に挫折してしまう。これは日本の陸上界が強くなれない大きな要因の1つだと思っています。

中藪 別の世界の人と話すようにするというのは、とても示唆的だと思いました。今日、対談しているこの場所は「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」といい、つながる、広がる、オープンイノベーションを具体的に進めるために作った空間です。私たちは顧客のデジタル・トランスフォーメーションを支援していますが、ここは顧客だけでなく、スタートアップや大学の研究機関にも自由に使っていただいています。企業や産業の壁を越えて、同じ目的を持つ者同士がワイワイガヤガヤと新しいモノやコトを創造する。そうした出会いの場がもっと日本に必要だと感じています。

関口 少し前、地方を活性化するには「よそ者、バカ者、若者」が必要だという議論がありました。企業の経営も同じです。さらに女性やハンディキャップ(障がい者など)も加えたダイバーシティーが日本の経済に必要だと思います。特に大企業はそうした多様性に欠けています。多くの大企業では、新卒採用の際、まず人事部の基準で応募者をスクリーニングするため、優秀ではあるものの、似たり寄ったりの平均的な人材になりがちです。欧米の企業では各事業部門が直接、面接することが多く、変わり者でも必要な能力を備えていれば採用しようという考え方が浸透しています。

 実はこんな話があります。東大合格者数トップの開成学園が、グローバル人材を育成しようと海外大学への留学プログラムを作ったところ、親が反発したそうです。「東大に入れるために開成に入学したのだから余計なことをしてくれるな」というわけです。一方、その東大は、学生を海外に留学しやすくしたり、留学生を受け入れやすくしたりするため、秋入学を導入しようとしましたが、頓挫しました。経団連企業の人事部門が「そんなことをしたら春の定期採用で東大卒業生を採りにくくなる」と反対したそうです。親も学校も企業も、有名中高校から有名大学、有名企業へというレールに乗せることが最優先なんですね。これでは多様な人材が育つはずがありません。

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