日本的デジタル化の落とし穴

日本のイノベーションを阻む壁とは 第1回 為末大、中藪竜也、関口和一の3氏による鼎談

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中藪 アクセンチュアではユーザー・エクスペリエンス、つまり顧客がどう感じるかを大事に考えるようにしています。かつては、機能を良くすることと、顧客の満足度を高めることが、同じ傾きで伸びていきました。ところが、顧客の満足度が、昔のように機能改善と比例しない時代が来たということを理解していない、または受け入れられない。これも「いい物づくり神話」を引きずっているからではないでしょうか。

ソニーが「iPod」を発明できなかった理由

関口 私はそうした日本の製造業の特徴を「理科系男子型技術開発」と呼んでいます(笑)。地道に、リニア(直線的)に積み上げていく発想ですね。その対極にあるのが「小保方さん型技術開発」。突拍子もない発想を持ち込むことで、従来のやり方を変えてしまう。先ほど、ソニーの話をしましたが、大ヒットした「ウオークマン」は創業者の井深大氏、盛田昭夫氏らが開発した画期的な新製品だったと思います。ところが、その後の技術者たちはその延長線上で「より良いウオークマン」を作ろうとした。つまり、より小さいサイズにし、よりバッテリーが長持ちするモーターを作る......そこに落とし穴があったと思います。一方、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏は「屋外で音楽が聴ける」ということの価値を的確に見抜き、メモリーやネットワークで音楽を聴ける「iPod」を開発し、ゲームのルールをガラッと変えてしまいました。

司会 日本企業が変わるには何が必要でしょう。

関口 一番大事なのは教育を変えることです。学校や先生の言うことを聞いていればいい、というメンタリティーを変えないといけません。米国では、人と変わったことをやるほうが尊ばれていますよね。

為末 教育という面で言うと、もっと人間を理解するところから始めてはどうでしょうか。そのためには理屈よりも感性、感動体験を重視する。例えば、陸上競技って、人が走っているだけなのに、何万という人が競技場や沿道で応援し、歓声をあげます。それはなぜなのか。人間とは何なのか。実は、感性とデジタルは相性がいいと思っています。ロジックとデジタルでは効率が良くなるだけですが。

司会 面白い発想ですね。日本人は感性の部分を可視化して面白くしていけば、欧米を逆転できるでしょうか。

為末 陸上の指導をするとき、地面を足で蹴ることを何と表現するか。英語だと「touch」や「push」くらいですが、日本には実にいろんな言葉があります。触覚をはじめ、五感を表す言葉が豊かなのです。そこに優位性があるような気がします。

中藪 日本語の話し言葉は「あいまい」ともとれますが、実はその裏に様々な意味や文脈を含んでいる場合が多い。その、表面に見えない後ろにあるモノをきちんと解析できると新たな発見があるかもしれませんね。

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