日本的デジタル化の落とし穴

日本のイノベーションを阻む壁とは 第1回 為末大、中藪竜也、関口和一の3氏による鼎談

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司会 デジタル化によって生み出される価値を、どうマネタイズしていくか。これも日本企業の課題だと思います。

為末 スポーツの世界でデジタルやマネタイズへの関心が高まった契機は、大リーグ・アスレチックスの改革を描いて映画にもなった『マネーボール』(マイケル・ルイス著)でしょうね。マネタイズで言うと、フェイスブックなどはサイトの表示頻度を変えることで、まるで蛇口をひねるように売り上げをコントロールしています。こんなビジネスは、昔なら考えられなかったのではないでしょうか。

中藪 日本では従来、製造業を中心として、原価にマージンを乗せたものを売値としてきました。しかし、フェイスブックはデジタル広告で圧倒的な利益率を誇りますが、最初にやったのはSNS(交流サイト)というプラットフォームの支配です。それがいくらの価値を生むかは後付けでした。収益よりもゲームを制する方を優先したのです。

「いい物づくり神話」の呪縛

関口 日本企業は自前主義や原価主義でやってきたので、どんなに価値の高い製品や部品を作っても、原価に一定のマージンを乗せた金額しかもらっていませんでした。アップルのiPhoneに使われる部品がその典型です。東日本大震災で日本の部品工場が止まり、製品を作る世界の工場が操業できなくなって初めて、日本メーカーの存在価値が知られるようになりましたが、それまでは実力に見合った評価がされていませんでした。一方、インテルは最初からマーケティングを意識して、パソコンメーカーに「インテル・インサイド」のロゴを貼ってもらい、高いブランド力を獲得してきました。

中藪 日本企業もようやく、モノ売りからコト売りを目指し始めたところだと思います。ただ、IoTやAIを使って生産設備のメンテナンスや電力コストを下げることで、顧客に価値をもたらす。それに対して対価をどれだけもらうかを起点に考える、といったビジネスモデルを描けるところまではいっていない。そこが一番大きな課題です。

関口 日本企業では「いい物を作れば売れる」と信じられてきましたが、私は違うんじゃないかと思ってきました。なぜ、こうしたメンタリティーが日本に生まれたのかといえば、戦後の経済復興期に米国のバイヤーが品質が良ければ日本の製品をちゃんと買ってくれたからだと思います。朝鮮戦争特需などもあり、たまたま日本の復興が早く進んだという運の良さもありました。日本のものづくりが優秀なのは日本人の手先が器用だから、という説もありますが、それを言うならアジアの人はみんなそうです。だからこそ日本の賃金が上がると、米国のバイヤーは韓国や中国から製品を調達するようになり、最近ではベトナムなどにも追い付かれてしまいました。

 日本企業の中では、ソニーは技術に強い会社だと言われてきましたが、実は「技術がある」と思わせるマーケティングが上手だったのだと思います。一方、米国のバイヤーの指示通りに製品を作ってきた三洋電機やシャープなどは「いい物づくり神話」から抜け出せず、苦境に陥りました。メーカーであっても、いかに早く自社の技術の強みやブランド力を見極め、それを世界に向けてアピールできるかが問われています。

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