日本的デジタル化の落とし穴

日本のイノベーションを阻む壁とは 第1回 為末大、中藪竜也、関口和一の3氏による鼎談

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関口 面白いですね。私もスポーツとデジタル技術は相当近い関係にあると思います。ドイツのサッカーが強いのは、SAPというドイツの大手システム会社がバックアップし、精緻なデータ分析をしているからです。テレビドラマの『陸王』でも相当のデータを取っていましたね。今までは人間自身がコンピューターのように過去の成功や失敗を学習してきましたが、今後はAIなどを人間の頭脳のペリフェラル(周辺機器)として活用することで、より正しい判断ができ、スポーツをより発展させることができると思います。

司会 欧米の方がデジタル分析をうまく活用し、より短時間で合理的な練習をしていますよね。日本はアナログ的な価値観が邪魔しているように見えます。

部活動と『失敗の本質』の共通点

為末 その通りです。日本のスポーツを象徴するのは部活動だと思いますが、そのメンタリティーを理解するのに最適の本は、日本の敗戦を分析した『失敗の本質』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎の共著)ですね。日本は個別最適では成功したが、全体最適で失敗した。スポーツでも、個々の選手とコーチの師弟関係はまさに職人の世界ですが、データを基にした戦略が圧倒的に弱い。デジタル的なものを取り入れようとしないことと戦略で負けることはセットですね。

中藪 今のお話は日本の大企業にもそのまま当てはまるでしょう。実はデータをたくさん取っている大企業は多いのです。ところが、いざ分析や戦略を決める段になると、データよりも経営者の経験と勘によって物事が決まってしまいます。

関口 先ほど話した1995年は「インターネット元年」と言われると同時に、日本企業の競争力が凋落し始めた分水嶺の年でもあります。ネット革命に乗り遅れたことが日本の競争力低下を招いたといえます。家電のようにデジタル技術が深く入り込んだ産業や製品ほど苦しんでいます。反対に、自動車のようにハードやメカ部分の構成要素が多いアナログ的な産業は競争力を維持しています。つまり設計が少し悪くても、現場の擦り合わせの力でカバーしてきたわけです。終身雇用制の下、いわば同じ釜の飯を食った仲間同士だからこそ、あうんの呼吸でいい製品をつくることができました。これが日本の擦り合わせが強いといわれた理由です。ところが、技術のデジタル化が進み、同時に経済のグローバル化が進んだことで同じ釜の飯が食えなくなり、あうんの呼吸が通用しなくなってしまったことが日本の競争力低下を招いた大きな要因だと言えます。

 もう1つの日本的な要素は「背中を見て覚えろ」という伝統的な徒弟制の文化です。その方が長い目で見れば技術力が身に付くという見方もありますが、一方、データを示して指導すれば、より早く技術が上達し、より高いゴールに達することも可能だと思います。そのためには、日本の強みといわれた「暗黙知」をビッグデータに置き換えていく必要があります。AIなどに裏付けられた匠(たくみ)の技を、いかに速くシェアするかという戦いになってきたと言えます。

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