日本的デジタル化の落とし穴

日本のイノベーションを阻む壁とは 第1回 為末大、中藪竜也、関口和一の3氏による鼎談

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協力:アクセンチュア

 人工知能(AI)や、あらゆるモノがネットにつながるIoT、ビッグデータ――。デジタル技術は日本企業が生き残るために欠かせないキーワードだ。だが、実際に技術を取り込み、経営変革につなげるのは容易ではない。何が変革を阻むのか。デジタル化の本質とは何か。本連載では、経営コンサルティング大手、アクセンチュアのコンサルタントが様々な分野のエキスパートと対談し、日本的デジタル化の要諦を探る。

 第1回は元陸上選手の為末大氏、アクセンチュア常務執行役員 通信・メディア・ハイテク本部統括本部長の中藪竜也氏、日本経済新聞社編集委員の関口和一の3人による鼎談をお届けする(司会はアクセンチュア マネジング・ディレクターの古嶋雅史氏)。

人間の本質を理解することが必要

司会 当社にも「デジタル化で経営変革したい」という企業の依頼は増えていますが、少し違和感を持っています。デジタル化によって何を目指すのか、経営のどこに問題があるのかが明確でなく、デジタル化自体が目的化している例も見られるからです。そもそもデジタル化とは何かというところから議論を始めたいと思います。

関口 インターネットが普及し始めた1995年ごろ、私はネット企画取材チームのキャップをしており、アクセンチュアの前身であるアンダーセン・コンサルティングが米シリコンバレーに設けた「戦略技術センター」を何度か訪ねたことがあるのですが、今の検索エンジンやネット通販ツールのプロトタイプのような技術を開発していました。今思うと、デジタル化のパイオニア的存在でした。

中藪 ありがとうございます(笑)。

関口 これまではアナログの表記に対し、ゼロイチで表すのがデジタルという意味でしたが、最近はデジタルという言葉が別な意味で使われるようになりました。「デジタルトランスフォーメーション」といった言葉が表すように、情報通信技術(ICT)を活用してビジネスや暮らしをどうより良いものに変革するかが、デジタル化の意味となっています。

為末 デジタル化とは何か、スポーツやエンターテインメントの世界から考えるとき、面白いエピソードがあります。ヨーロッパでチェスの王者同士が勝負することになり、トスで先手後手が決まった瞬間、後手が「参りました」と言ったという話です。チェスは統計的に先手が有利と言われているのですが、本当に勝負の前段階ですべての要因が決まってしまうと、スポーツや勝負事は成り立たないということの例えです。スポーツでも何でも、人間は何かが上手にできると喜びを感じ、それが「有能感」につながります。つまり余白ですね。デジタル化がさらに進むと人間の余地はどこに残るのかを考えるとき、スポーツやエンタメはわかりやすい実験場になるような気がします。

 もう1つ、日本のスポーツ界には伝統的にデジタルやテクノロジーを嫌がる文化のようなものがあります。「データよりも勘が大事だ!」みたいな(笑)。実際、データで分析しきれていない部分が多いのも事実です。例えば、バッターがボールを打つか打たないか、何をもとに決めているか。バッターの視線やピッチャーの動きかと思ったら、実は観客の声だったそうです。選手は主観的に判断していると思っていたけど、実は環境が影響を与えていたわけです。スポーツの奥深い世界をデジタルで理解しようとすることは、人間の本質に近づくことかもしれません。