ビール「営業王」 社長たちの戦い 4人の奇しき軌跡

サッポロ・尾賀社長「もう帰れ」店主の声で開眼 前野 雅弥

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 狙いは的中し、ザ・パーフェクト黒ラベル ビヤガーデンは大盛況となった。来客数は当初予測を大きく超え、売上高も計画値を上回った。これが追い風になり、2016年1~12月の西日本での「黒ラベル」缶の販売数量は、前年の1.4倍に。瓶や樽生を合わせた「黒ラベル」ブランド合計の販売数量も前年を10%上回った。

 西を攻めろ。尾賀は2年間、こう指示し続けた。サッポロはその名の通り、東京から北海道にかけて強い。関西の営業基盤もそれなりに固めてはきたが、東日本ほど盤石とはいえなかった。シェアもいまひとつ。ただ、それは「伸びしろがあることの裏返し」と踏んでいた。

 「西の人たちは、みんなサッポロを知らないだけ。『黒ラベル』は嫌われていないはず」。尾賀は周囲を説得し、鼓舞した。自信満々の発言には根拠がある。2004年、大阪第1支社長として赴任した時の体験だ。

 当時、大阪にはサッポロの茨木工場があり、その近くにジャスコ(現イオン)の店があった。「関西だからうちはダメだ」では、戦う前から負けている。やってみないとわからない。新商品の発売を機にこの店を攻めたところ、店内はサッポロだらけになった。サッポロのシェアは全国平均の2倍を超えた。いい意味で「異常値だった」。

 店は関西にしてはサッポロが強いエリアにあり、近くに工場もある。サッポロの名前は浸透してはいた。それなのに開拓し切れていなかった。「やる気になってきちんと提案していけば、関西でもちゃんとサッポロのビールは売れることがわかった」

「ヱビス」を置いてるから「黒ラベル」はいいや

 西日本でも高級ビールの「ヱビス」は定番となりつつあり、「ヱビス」と言えば、まずどこでも置いてもらえる。ただ、サッポロの営業はここで止まってしまう。サッポロの主役である「黒ラベル」にまで広がっていかないのだ。

 高級ビールである「ヱビス」と異なり、「黒ラベル」はスタンダードビールの範疇に入る。スタンダードビールでは、アサヒビールの「スーパードライ」、キリンビールの「一番搾り」がしのぎを削り、「黒ラベル」はなかなか割り込んでいけない。

 お店からも、「うちは『ヱビス』を置いているから、サッポロのビールはそれで十分。『黒ラベル』はいいや」と言われることも少なくない。「この状況をなんとか打ち破りたい。うちはもっともっと、やれる会社なんだから」。2016年のビール系飲料市場でのシェアは12.0%で4位。でも、「20%は欲しい」。現状に甘んじる気は毛頭ない。

 最近、尾賀はつくづく思う。酒類の業界は「10年単位で動く」と。顧客の嗜好は1日では変わらない。しかし、10年たてば、確実に変わる。実際、清酒の製成数量のピークが1973年、その10年後にウイスキーのピーク、さらに10年後にビールのピークがきた。時代のうねりのなかでサッポロはどう飛躍していけるのか。

 2016年、サッポロは創業140周年を迎えた。尾賀は今、「とにかくビールに集中的に経営資源を投入していく」と話す。「150周年に向けてどんな種を植えるのか、それが問われている」。10年後におそらく尾賀はサッポロにはいないが、社員たちは残る。「ああ、サッポロの社員で良かったなあ」。そう言ってもらえる会社にしたいと心から思う。

 尾賀は休日、妻をともなってスーパーやコンビニを回ることが多い。自社のビールが棚のどの位置に、どれくらい並べてもらっているか。消費者は買ってくれているのか。関心を持って商品を眺めてくれているのか......。つぶさに見て回る。

 そこから10年後の新生サッポロに向け、どの道を行けばいいか、見えてくると考えている。

前野雅弥著 『ビール「営業王」 社長たちの戦い 4人の奇しき軌跡』(日本経済新聞出版社、2017年)序章「奇跡」、第2章「洗礼」、第3章「激震」から
前野 雅弥(まえの まさや)
日本経済新聞記者。

1991年早稲田大学大学院政治学研究科修了、日本経済新聞社入社。東京経済部、大阪経済部を経て企業報道部。

※記事中の肩書きは書籍出版当時のものです。

キーワード:経営層、管理職、マーケティング、営業、経営、人事、人材、働き方改革

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