複線型人事を成功させるポイント
人員構成と組織構造の矛盾を解決するために、多くの企業が採用しているのが「複線型人事」である。複線型人事とは、マネジメント能力の強みを活かして貢献する管理職コースと専門性の強みを活かして貢献する専門職コースに区分し、キャリア開発の方向付けと人材の有効活用、社員の動機付けを狙ったものである。
複線型人事が導入されたのは、企業が団塊世代の高年齢化に悩まされた1980年代にさかのぼるが、当時と同じようにバブル世代の高年齢化は企業にとって大きな問題となっており、複線化のニーズは高まっていくと予想される。
複線型人事という概念は極めてポピュラーなものであるが、筆者の経験から成功している事例はあまり多くない。複線型人事制度の設計や運用にあたって、成否を分けるポイントをいくつか紹介したい。
(1)管理職に適材が供給されるパイプラインをつくる
これから管理職/専門職に昇格していく中堅層にとって、目指したいと思うキャリアゴールとして認知され、自らの強みを意識して磨こうとする動機付けを与えることが重要である。管理職でも専門職でもない中途半端な人材を将来抱えるリスクを回避するためには、入口の段階で適切な意識付け・能力開発を施すことがポイントである。手法としては、キャリア開発のプログラムや人事評価・昇格判定の仕組みの中に、以下のプロセスを埋め込むことが有効である。
(1) | 本人の目指すキャリア像が会社の期待するキャリア像と重ね合わさるように導く |
(2) | 強みと弱み(不足)の正しい自己認識を促す |
(3) | 「試練の場」を与える |
(4) | 試練から得られた学びを言葉にし、次に活かす |
これらのプロセスを実践するためには、直属の上司のマネジメントだけに依存することは現実的ではない。管理職の人材育成(観察・指導)の権限を中堅層に委譲することや、主要な専門分野ごとに客観的なアドバイスができる「メンター」を養成するなど、上司のマネジメント力のバラつき・不足を仕組みで補う工夫が求められる。
(2)会社にとって「価値ある専門性」を定義する
複線型人事をうまく運用する2つ目のポイントは、専門職をどのように定義するかである。どんな仕事であっても専門性がなければ遂行することはできないわけで、裏を返せばどんな社員でも専門職と主張しうることになってしまう。重要なのは、会社にとって「価値ある専門性」とは何かを定義し、その蓄積・発揮・組織的活用を高く評価し、報いられる仕組みにすることである。