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M&A成功のカギは魅力ある「ストーリー」 マーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル 島田圭子氏

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――具体的に、どのように引き留め策を進めていけばよいのでしょう。

 買収する企業の資産や人材などを評価するデュー・デリジェンス(DD)の期間中に、どれだけ現経営陣と具体的な交渉をし、残ってもらう約束を取り付けられるかがカギとなる。厳密にいえば、上場企業の買収においては、DD期間を経て買収価格で合意できるまでの間は、経営陣の報酬の具体的な打診はできない。価格が決まってから買収契約を締結するまでの期間は数日間から10日間程度と短いが、ここですぐに報酬提示に入れるように事前準備を重ねる。

 ただ、DD期間中にうまく請求しないと、M&A取引によっては相手側から得られる情報は限られる。雇用契約などの現状をきちんと把握していないと、思わぬ出費を余儀なくされる。例えば、実際に企業買収のお手伝いをしていて特に気をつけているのが、経営者の解雇や自己都合退職にまつわるグッド・リーズン・クローズなどの条件だ。買収を契機に経営者の役割が大幅に縮小したり、報酬が下がったり、勤務地が非常に離れたりする場合、チェンジ・オブ・コントロール条項で定義するクロージング後の一定期間内に自ら辞めた場合でも多額の解雇手当がもらえる場合がある。経営者の流出リスクを高める上に出費も伴うため、対策が必要となる。DDは買い手側の権利であり、買収成立やクロージング後の運営上、必要不可欠な精査は遠慮せず、きちんと要求すべきだ。

「偉業を達成できる」と伝えられるか

――書面だけでなく、実際に経営者に面談することも大切だそうですね。具体的にどんなことを聞くのですか。

 まず処遇条件の確認だ。特にベンチャー企業などでは書面に書いていない手当てがある場合がある。そして、現在の役割や職務を正確に把握すること。社内外の関係者とどう連携しているのか、もし、この人が突然辞めると言い出した場合、どのくらいインパクトがあるのか、引き継ぎ期間はどれくらい必要か、後継となるべき人物はいるのか、といったことを押さえておかないと、いざという時に対応できない。

 もう1つ大事なのが、日本企業に買われることへの期待や不安について、率直に話してもらうことだ。以前、ある日本企業が海外企業を買収する際、どうも相手側の反応がよくないので、当社が探ってみた。すると、経営者は「今回の買収が従業員にとってどんなメリットがあるか説明できない」という。日本側は「マネジメントは何も変えない、心配しなくていい」と説明してきたと思っている。しかし、買われる側は買収によってどんな面白い仕事ができるのか、偉業が達成できるのか、ストーリーを求めている。買い手と買われる側の経営者同士がひざを突き合わせて、魅力的な形で示さないと伝わらない。

 買収後に経営者が日本の本社の誰に指示を仰ぎ、報告するかというレポートラインも重要だ。欧米の経営者は自分の上司が誰になるのかを気にする。上場企業のCEO(最高経営責任者)だと、本社の事業部長が上司になると聞いただけで辞める理由になりうる。もっと上の役職者を上司にしたり、経営者本人を本社の役員に引き上げたりする必要が出てくる場合もあるだろう。それでも離職する可能性が高いなら、引き留め策と並行して後継者の昇任検討や外部人材のスカウトも進めなければならない。経営者との処遇条件の交渉の際には、ここまで検討しておく必要がある。

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