石川善樹の「脳とうまく付き合う法」

人間の限界はどこまで広げられるか 世界選手権で2度の銅メダル・為末大氏に聞く

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石川 桐生選手は先日の日本選手権で3位に終わって泣いていました。オリンピックへの出場は決まっていて、本番はこれからなのに、あれは何に対する涙だったんでしょう。

理由がわからない負けもある

為末 自分ではいけると思っていたのに負けたことがショックだったんですかね。それとも、超負けず嫌いなのか。僕はオリンピックで転倒した時、それまで自分が勝負強いと思っていたのは、有利な状況の中だけで通用するものだったんだと気づきました。格上の選手がそろう大会、つまり余裕のない状況でも勝負強さを発揮するにはどうすればよいか、そこから考え始めたんです。

石川 それってメチャクチャ面白いですね。どういう風に考えたんですか。

為末 余裕があるときは、主導権はこちらにあると思えるので、他の選手をほどよく見下す感じでパフォーマンスをしている。ところが、余裕がないと、今度は逆に他人が強く見えてしょうがない。結局、他人はコントロールできないのだから、自分が一生懸命走ることにフォーカスしようと。結論はありきたりかもしれませんが、自分の中ではすごく整理できました。

石川 それから最初のメダルを取るまでは早かったですね。

為末 ええ、1年後くらいですね。でも、そのときは勝負強さというよりも、うまくはまったという感じが強かったのです。本当に勝負強さを発揮できたなと思えるのは、それから4年後に2個目のメダルをとった時です。いったんスランプに陥って、そこからいろいろ試行錯誤して抜け出したことで、追い詰められた状況でも自分の走りができるという自信がついたのです。リオ五輪では、選手のメンタル面を考えながら見ると面白いかもしれませんね。瀬戸際に追い込まれた時、人間は何を考えるのか、如実に表れますから。

石川 前回のロンドン五輪で、ある陸上選手が「なんで負けたのかわからない」と話していたのが印象に残っているんですが。

為末 女子100メートルの福島千里選手ですね。非常に調子がよくて準備も完璧だったのに負けてしまった。問題があれば、逆に解決方法もすぐ見つかるんですけどね。こういうときの対処は2つあって、1つは何が問題かわからないけど、それでも何とかしようとあがく。もう1つはいろいろ考えすぎて、本当のスランプに陥らないことです。人間のパフォーマンスは日によって揺らぎます。「今日はそういう日だったんだ」というのが一番正しい答えである場合もあるんです。

石川 逆に、勝った時の原因を勘違いする場合もありますか。

為末 ありますね。僕自身、最初のメダルを取る前に相当走り込んでいたので、それがうまくいった要因だと思い込んでしまった。その後、何かあると走り込むクセがついたというか、そっちに逃げるようになったんです。年齢に応じて練習量を減らす必要があったのに、走り込んだことがスランプにつながったと思います。

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