石川善樹の「脳とうまく付き合う法」

人間の限界はどこまで広げられるか 世界選手権で2度の銅メダル・為末大氏に聞く

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石川 障害とは何か、が問われそうですね。最近は、脳に電気的な刺激を与えて、動作の学習を早めるような実験も始まっているそうです。米国ではスキーやアメフトといった競技で実際に使われているとか。これはドーピングにならないんでしょうか。少し前には速く泳げる水着も問題になりましたよね。

人間本来の力とは何かが問われる

為末 人間本来の力とは何か、という話になります。2020年の東京五輪に向けても、能力を高めるための技術や道具はいっぱい出てくると思います。遺伝子操作とか、精子バンクなども問題になるかもしれません。僕個人は、オリンピックとパラリンピックを一緒にすることには反対です。今の世論では、障害者が勝った時に、観客が心から納得感を持って祝福するかどうか疑問ですし、今後は義足などの技術が発達して、障害者の方が圧倒的に強くなる可能性もあるからです。

石川 エキシビジョンなんかで一緒に競技するといいかもしれませんね。

為末 そうですね。もともと、オリンピックは本来の力で競い合うことにこだわってきた歴史があります。当初は貴族が中心の大会だったので、郵便配達人の出場は認められていなかったそうです。日常の労働のなかで不当に体を鍛えており、アマチュアリズムに反するからだと。

石川 それは面白い話ですね。人間の可能性はどこまで伸ばせるのか、どんな要因が関わるのか、本当にさまざまですね。

為末 選手が所属する環境も、相当に影響があると思います。世界選手権の200メートルで日本人初の銅メダルをとった末續慎吾選手。彼が東海大学に在学している間、同じ大学の選手の記録もすごく伸びたんです。ところが、末續選手がピークを過ぎたら、ほかの選手も軒並み弱くなってしまった(笑)。

石川 本当ですか?

為末 そうなんです。後になって、選手たちに聞いてみると、何であんなに速くなったのか、自分でもわからないというんですね。チーム全体が壮大なプラス思考になっていた。まるで魔法のようだと。集団の空気が個人の限界も左右するんだなと思いました。

石川 競争の科学という研究分野があって、男と女では集団の力学が違うという研究結果があります。男性は集団の中に圧倒的に突き抜けた人がいる、つまり、集団内の格差が大きいと、下の人たちはあきらめてしまう。集団の下位に沈んでいるくらいなら、レベルの下の集団の上位にいた方がやる気が出て伸びるそうです。一方、女性は格差が大きい方が、上に引っ張られてやる気が出るようです。

為末 面白いですね。末續選手の場合、最初から才能がずばぬけていたわけではありません。彼は全国一ではなく、「俺たち」から始まって、練習を重ねて「末續」になった。レギュラーじゃないのにがんばってレギュラーになったから、周りも俺たちだってできるという雰囲気になったんじゃないでしょうか。

石川 リオ五輪に出場が決まった100メートルの桐生祥秀選手の場合はどうですか。高校生の時から10秒0台ですよね。

為末 周りが「やっぱ、桐生は違うよね」みたいになるのかどうか(笑)。興味ありますね。

石川 企業の表彰制度でも、男性はダメだった人が成果をあげたケースを表彰すると盛り上がる。女性は断トツでできる人が表彰されると、周りの意欲も上がるそうです。

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