石川善樹の「脳とうまく付き合う法」

人間の限界はどこまで広げられるか 世界選手権で2度の銅メダル・為末大氏に聞く

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石川 ちょっとずれるかもしれませんが、パラリンピックは限界や制約が多い分、技術や能力が進歩する余地が大きいように思います。為末さんは義足の開発やパラリンピック選手の指導などにも携わっていますが、どうお考えですか。

足の裏でフィールドを「見る」リカルド選手

為末 パラリンピックは人間の可能性の象徴のような気がしています。たとえば、視覚障害者が音の出るボールで競技するブラインドサッカーで、リカルド・アウベス(ブラジル)というスター選手がいます。聴力が優れているのかと思って調べたら、音への反応は一般の人と変わらなかったそうです。

石川 何が違うのでしょう。

為末 このくらい足を出すと、これだけの距離を進むだろうという筋力の制御と地面反力への感覚が優れていたのです。右斜め前に10センチ進もうとすると、正確にそれだけ進めるのです。私たちは視覚に頼りすぎていて、目をつむると正確に動けません。リカルド選手は地面にきれいな円を描くことができるそうです。

石川 それはすごい! 足の裏でフィールドが見えているということですね。

為末 彼は7歳で失明したので、そこから身に付けた能力です。人間の能力ってそこまで進化できるんだ、という気持ちになりますね。

石川 為末さんは義足のランナーがいずれ、健常者より速く走れるようになるとお考えですよね。どういう根拠からですか。

為末 走るということの原理を改めて考えてみたのです。人が走る時に地面に足を接する時間は0.1秒くらいです。この瞬間、筋肉を縮めてキックして前に進むと思われがちですが、実際は筋肉を固めて体重の5倍くらいの重力を支えようとして、支えきれずに曲がって反発する力で前に進んでいるのです。義足は筋肉の換わりにカーボン(炭素繊維)を使いますが、我々のアキレスけんより曲がって反発する力が大きい。だから、この原理をうまく制御できるようになれば、人よりも速く走れるだろうと思います。

石川 本当に100メートルでウサイン・ボルト選手の記録を抜いたら、すごく大変なことになりそうですね。

為末 我々の中の何かが崩れるような感覚でしょうね。

石川 そりゃ、ずるいよっていう話になりませんか(笑)。

為末 実はそれに近いことが起こっています。走り幅跳びのマルクス・レーム(ドイツ)という選手が去年、8メートル40センチという記録を出しました。これはロンドン・オリンピックの金メダルの記録を上回っています。彼は右足に義足を付けていて、その反発力を利用しているのではないかと議論になっているわけです。数年前、短距離のオスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)の時はオリンピックへの出場を支持する声が多かった。健常者を負かすとは思われてなかったからでしょう。しかし、レーム選手は金メダルを取りそうなので、本当に公正なのかという反発を受けているのです。

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