石川善樹の「脳とうまく付き合う法」

人間の限界はどこまで広げられるか 世界選手権で2度の銅メダル・為末大氏に聞く

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石川 概念としてはわかるんですが、為末さんがやっていることって結局は走ることで、周りから見ると、そんなに試行錯誤することってあるのかなと(笑)。いや、何が言いたいかというと、一般の人は同じ仕事をずっとやってるとルーティン化してしまいますが、為末さんはルーティン化せずに工夫していく力があるんだと思うんです。

自分の走りを大胆に変えてみる

為末 野球やサッカーの方が工夫しにくいと思いますよ。陸上はほとんど型が決まってるから、変えたことによる結果がわかりやすいけど、サッカーなどは相手の動きもあるし、変数が多すぎて何が作用したのかわかりにくい。陸上の方が実験室でやってることに近いんだと思います。

石川 なるほど、そうですね。

為末 それと、僕が心がけてきたのは、なるべく変化の幅を大きくすることです。一般的に選手はフォームなどを大きく変えません。変えた後に元に戻せなくなるのが一番こわいからです。僕は自分の走りがわかっていたし、元に戻せる自信もあったので、少し遊んでは元に戻すことを繰り返して、理想の走りに近づけてきました。

石川 ベテラン選手ほど、ちゃんと休みが取れる感覚と近いですか。

為末 近いと思います。休んでも、6週間で戻せるなとか、わかってきますよね。

石川 日本人は努力が好きだから、1日でも休むと大変だとなりがちです。

為末 日本のスポーツ界は、20歳以下は世界と競えるレベルなのに、それ以上になるとガクンと落ちてしまう。なぜかというと直線方向の成長を信じすぎているからだと思います。積み重ねや改善だけに頼っている。実際には、ある程度のレベルまでいくと、自分の型をいったん壊さないと前には進めません。しかし、日本人は壊せない人が多い。頭打ちになった時、今までと全く違うアプローチに変えて、自分を揺さぶりながら前へ進むべきなのに、それを文化的に良しとしない土壌があるような気がします。

石川 目先の損を受け入れることができない。

為末 その通りです。短期的には成長が止まっているように見えますからね。

石川 良いか悪いかは、本番で試してみないとわからない面もありますよね。

為末 それもあるでしょう。ある程度、緊張した状態を経験しておかないと、本番ではパフォーマンスできません。心理面も大きく影響すると思います。

石川 たくさんのことを体験して、ようやく覚悟が決まると。

為末 限界が決まらないと伸びしろがわからず、伸ばしようがないんです。また日本のスポーツ界の話になってしまいますが、よく戦略がないと言われます。戦略と限界はセットです。限界がわかるから、そこに至るまでの戦略が立てられる。根性論や精神論の一番の罪は、限界は心の問題だと考えがちなところ。気の持ちようで限界は突破できるとなるから戦略がなくなる。

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