石川善樹の「脳とうまく付き合う法」

人間の限界はどこまで広げられるか 世界選手権で2度の銅メダル・為末大氏に聞く

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為末 最初は何も考えずに始めるわけです。しかし、ずっと何も考えずにいるのは選手にとっては逆に難しい。競技を続けていくと、理解したいという欲求がどんどん強くなっていきますから。ところが、考えすぎると谷に落ちてしまう。ひたすら考えて、あるとき、それがうまくいく瞬間が来る。そこから、考えることと、考えないことを上手にバランスさせるようになると、パフォーマンスが上がるような気がしますね。

「そこまで考える」でなく「そこから考える」

石川 他のスポーツ選手は、どうやって走るのかを分析する。為末さんはそもそも走るとは何かを考えているように見えます。その方が、新しい走り方を作れるように思います。

為末 原理原則から考えるってことですかね。

石川 そうですね。周りの人は為末さんに「どうして、そこまで考えるんですか」と聞くと思うんですが、為末さんからすれば「いや、そこから考えるんです」という感覚じゃないでしょうか。どうして、そういう風に考えるようになったんですか。

為末 昔から現状を疑うというか、目の前にあるものをすぐに受け入れるんじゃなくて、そもそも何だろうと考えるところはありました。たとえば、ウオーミングアップは何のためにするんだろうとか、そもそも手足を動かさなくても前に進めばいいけど、そうはいかないから動かすしかないとか、そういうところから入っていく。そこから考えて、やっぱり今の練習方法にたどり着くかもしれないし、少しずれたものになるかもしれない。そんな風に逆算して考えるクセがついていますね。

石川 そういう考え方をしていると、上達するのは時間がかかるように思いますが。

為末 はい、自分でも余計なことを考えてるなと思います(笑)。一番早いのは型を覚えることでしょうけどね。ただ、最後の最後に選手を支えているのは、自分のやっている方向が正しいのか、正しくないのか、わかるという感覚なんです。これは考えていないと身に付かない。

石川 もう少し、詳しく教えてもらえますか。

為末 速く走るためにはこの方向だ、と思っても、すぐに成果が出るとは限りません。掘り続けていけば伸びるかもしれないし、掘っても掘っても成果が出ず、逆にパフォーマンスを下げるかもしれない。ただ、選手には「それが正しい方向だ」ということが肌感覚でわかるのです。論理的に説明するのは難しくて、人に聞かれても「何となくそういう気がする」としか答えられないんですけどね。そして、いい選手ほど、その感覚が当たる。

石川 直感を信じられるかどうか、ですかね。

為末 そうですね。低いレベルはともかく、高いレベルでブレークスルーする時って、偶然の要素が大きいんです。最初は意図的に速く走る方法を試すフェーズがあり、だんだん完成形に近づいてくる。あれこれやっているうちに、「あれ、今の感覚なんだろう」という瞬間が来るわけです。後は、それをどう再現するかを考える。自転車に乗るときも、最初から乗れる方法を知っているわけじゃなくて、いろいろやっているうちに乗れてしまう。それと似てますね。

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