石川善樹の「脳とうまく付き合う法」

人間の限界はどこまで広げられるか 世界選手権で2度の銅メダル・為末大氏に聞く

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為末 技術と肉体を分けるのは難しいんですが、極端な言い方をする人は、人類の進化はすべて技術の進化であり、人間は何も変わってないと言いますね。変わったのは技術と地面と靴だけだと。僕自身は人間自体も多少は変わってきたと思っています。一番は栄養に関する研究です。それに、トレーニングによる体へのダメージや、その回復の仕方なども科学的アプローチが進んでいます。

石川 人間自体のパフォーマンスも上がってきていると。

最高の環境で勝てなくなったケニア選手

為末 大氏(ためすえ だい)

為末 大氏(ためすえ だい)

広島県生まれ。400メートルハードルの日本記録保持者。2001年エドモントン世界選手権および、2005年ヘルシンキ世界選手権で銅メダルを獲得。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年に現役引退。現在は自身が経営する株式会社侍のほか、一般社団法人アスリートソサエティ、株式会社サイボーグなどを通じて幅広く活躍する。著書に『逃げる自由 諦める力2』(プレジデント社)、『限界の正体 自分の見えない檻から抜け出す法』(SBクリエイティブ社、7月26日発売)など。

為末 そうですね。ただ、同時にやっかいなこともわかってきました。あるケニアの選手が世界大会で金メダルをとったんですが、栄養のとり方は極端に偏っていた。それで最高の環境を求めて先進国にトレーニングの場所を移したら、勝てなくなってしまったというんです。

石川 なぜなんでしょう。

為末 それがよくわからないんですね。パフォーマンスの要素を分解していくと、一つ一つは完璧でも、何らかの要素が関係しあって、結果としてのパフォーマンスはよくないこともある。もしかすると、生活に満足してしまって走ることに執着しなくなったのかもしれない。実際、ケニアの陸上選手はメダルを取ると子供の通学に送迎バスを使えるようになり、子供の脚力は落ちるという話もあります。親は何十キロも走って通ったのに(笑)。

石川 それは面白いですね。芸術や技能の世界では親から子へ受け継がれるものがありますが、スポーツの世界ではどうでしょう。

為末 何がケニア選手の競技力を支えているかという話にも通じるんですが、遺伝的な要因だけじゃなくて、長時間歩行しているという環境要因も大きいんじゃないかという説もあります。芸術家の場合も、小さい頃からその芸術に触れているという要素が大きいですよね。陸上でも、ハンマー投げの室伏重信・広治親子のような「一子相伝」の世界はありますけど(笑)。

石川 確かに(笑)。肉体の話から、今度は心の話に移りたいと思いますが、オリンピックに出た選手に何が一番重要だったかを聞くと、多くの人が「心」だと答えますよね。大会の前は技術や体調のことを話す人が多いんですが、出る前と後とで何が変わるんでしょう。

為末 オリンピックが非日常の世界だと実感するからじゃないでしょうか。あそこでパフォーマンスをするのは心が大事だと体感するんです。

石川 オリンピックって、そんなに違うもんですか、ほかの大会と比べて。

為末 何が違うかというと、周りの人たちの待ちに待った感というか、いよいよ感がすごく強いんですよ。壮行会とか応援団とか、テレビに出たり、芸能人が突然応援し始めたり(笑)。特別感がどんどん増していくわけです。

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