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ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」? 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

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今回の経営者・山岡社長への処方箋

 社長、お気持ちはわかります。ただ御社の場合、就業規則も適当に作っていますし、起訴休職命令すら難しいかもしれません。

 ましてや問答無用で懲戒解雇や退職金全額不支給などの蛮行に及べば、確実に裁判になりますし、裁判になってもほぼ負けになるでしょうから、そうなったら、それこそ恥の上塗りです。

 長期間の労働裁判の末、解雇無効が認められ細田氏が会社に復帰するなどという事態になったら最悪です。解雇した以上、職場復帰までの賃金は最終的には全部、利息を付けて払わされますし、細田氏が定年まで、アンタッチャブルな厄介者として、居続けることだってありえます。それもこれも「懲戒解雇」という、会社の一方的な契約終了措置にこだわるからと、「退職金をビタ一円たりとも支給してやらん」という強烈なペナルティーにこだわるから、でしょう。

 懲戒解雇自体に意味があるわけではないですし、要するに目的は、彼と会社との関係を切断し、無関係になることのはずです。退職金についても、別に会社にカネがないわけではなく、彼のこれまでの勤務態度に異議や不満があるわけでもなく、「腹が立ったのでカネをやりたくない」という感情問題です。退職金については賃金の後払い、いわば「会社に預けてたカネを返す」という趣旨のもののはずです。もともと会社が当然に支払い留保できる筋合いのものではありません。

 落とし所としては、退職を認め、退職金を一部減額して、とっとと会社を辞めてもらう、ということでしょうね。

 本当はただの退職なのですが、社内外への説明の都合上、「懲戒解雇した」という公表措置に異議なく同意させ、今回の報道やネットのバッシングの対応分損害を一部退職金から差し引く形で幕引きですね。

 とはいえ、相手方が、あまりに強気なことを言うようであれば、労働契約関係は存続した状態で従業員に対する損害賠償請求を起こし、細田氏を二正面作戦の状態に追い込むと同時に、「若い女性を守り、痴漢を撲滅する」という大義名分で、検察側に協力して彼に不利な悪しき情状をどんどん情報提供して、厳罰を求めるスタンスも辞さない、という姿勢が自然に伝わるようにしてもいいでしょう。

 冷静にゲーム環境を把握し、相手の泣き所を正確に把握してそこをチクチク突きながら、あまり背伸びせず、いい塩梅のところで落ち着く形で、迅速に話をまとめて、日常の業務に復帰しましょう。

畑中 鉄丸(はたなか てつまる)
弁護士・ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部在学中に司法試験(日本)及び国家公務員試験1種に各合格。新日本製鉄勤務等を経て、弁護士登録し、1998年に渡米。ペンシルバニア大ロースクール(修士課程)留学、ニューヨーク州司法試験合格後、Kirkland&Ellis法律事務所勤務等を経て、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立し、現在に至る。多数の企業・医療機関・学校法人等の顧問弁護士を務めるほか、日本弁護士連合会債権回収に関する委員会(サービサー委員会)前委員長、日本商品先物取引協会あっせん・調停委員、日本商品先物取引協会・自主規制委員会委員、一般社団法人ニューメディアリスク協会理事、子ども安全学会理事長等を歴任。著書は「企業法務バイブル」シリーズ(弘文堂)、「戦略的コンプライアンス経営」(弘文堂)、「ビジネス契約実務大全」(企業研究会、分担執筆)、「法律オンチが会社を滅ぼす」(東洋経済新報社)、「こんな法務じゃ会社がつぶれる」「生兵法務は大怪我のもと!」(第一法規)、「ヤヴァイ会社の死亡フラグ10」(経世出版)等多数。最新刊は「こんな法務じゃ会社があぶない」(2016年4月、第一法規)。

キーワード:経営、マーケティング、グローバル化、働き方改革、人材、イノベーション、経営層

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