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ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」? 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

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推奨されるソリッドな対応法

 では一流企業では、どのくらい慎重にかつ堅実に、社外での犯罪ケースに対して処分しているのでしょうか。実際の事例に即してみてましょう。

 ある電鉄会社のケースで、勤続20年の社員が、電車に乗っていた女子大生に対してスカートの上からお尻をなでるという痴漢行為を行い、警察署に逮捕された、という事件です。逮捕拘留後、迷惑防止条例で略式起訴され、20万円の罰金を納めて釈放されました。

 しかし、この事件発覚後、会社が調査したところ、その3年前にも、痴漢行為により罰金刑に処せられていたことがわかりました。会社は、すぐに解雇したりするようなことはせず、賞罰委員会を開催し、昇給停止および降職処分としました。にもかかわらず、それからしばらくして、今度は、この社員、別の電車で女子高生に対して、また痴漢行為をはたらき、逮捕拘留後、迷惑条例違反で起訴されました。

 会社は、拘留中の社員に数次にわたる面会を行い、その過程で、「この痴漢行為についての事実を全面的に認めるとともに、会社のいかなる処分に対しても一切の弁明をしない」と署名捺印された自認書を作成交付させ、これを前提に、賞罰委員会の討議を経て、この社員を懲戒解雇とし、さらに就業規則に従って、退職金を不支給としました。

 ここまで厳格に、入念に、しっかりと完全にやったら、流石に文句や異議は出ないだろうと思えます。しかし当該社員から「"自認書"については、内容を検討するゆとりも与えられずに、すぐに署名を求められたものだから、自由意思にもとづいて署名したとはいえない」「痴漢自体は重大な犯罪行為であることは認めるが、業務には関係しない私生活上のこと」「電鉄会社にも具体的な不利益や損害もない」「懲戒解雇にしても、退職金の不支給にしても、ペナルティとして尋常ではなく重すぎ、違法で無効」という訴えが起こりました。

 裁判の結果ですが、東京高裁(平成15年12月11日判決)は、懲戒解雇は有効としたものの、退職金の不支給については、ある部分やむを得ないが、全額不支給は会社の行き過ぎであって、三割は払ってやれ、という判断でした。

 ここで皆さんに認識していただきたいのは「痴漢なんて一回でもしたら、そんなの、即懲戒解雇で、退職金もナシでしょ」というのが一種の都市伝説であり、社員側が必死に争って裁判までもつれ込めば、「会社の方が行き過ぎ。やり過ぎ。野蛮」と言われかねない、そんな、法的環境がある、ということです。

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