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ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」? 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

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 特に、設例の会社のように、顧客層に思いっきり反感を買い、会社の信用がガタ落ちになるような破廉恥な犯罪に関係したと疑われている従業員を、グレーな「病欠」扱いとしておくと、社内外から批判を浴びかねません。

 そこで、起訴により企業の社会的信用が失墜し、職場秩序に支障が生じるおそれがある、といった合理的要件の充足を前提として、起訴休職命令を発出する、という就業規則上の扱いが正当化されます。労働者サイドの都合による休職ですと、労働者自らの帰責事由による労務提供不能という状況になりますので、当然賃金は発生しませんが、就業規則においてもそのあたり明記しておいた方がいいでしょう。

 「混乱を避けるため、自宅待機あるいは当面は出社及ばず」なんていい加減な命令をすると、「オレは働けるし働く気マンマンだが、会社に来るなと言われたから会社の命令にしたがって、働きません」という状況ですから、当然ながら、会社は賃金を払わなければなりません。

 また、会社が特段の措置を取らず、社員が勾留のため会社に来られない、という場合、民法536条2項(債務者の危険負担等)や労働基準法26条(休業手当)に該当するなどという解釈を誘発しかねず、賃金を巡ったトラブルになりかねません。

 いずれにせよ「会社の信用を傷つける犯罪を犯した者を職場に来させると、会社がエライ目にあう。命令として会社に来させないし、そのような事態に陥ったのは自業自得なので、当然給料も払わない」という扱いを明確にしておくことが肝心です。

 では、設例のような事例で、山岡社長が言っている、懲戒解雇や退職金不支給などということはできるのでしょうか。 一般論として、懲戒解雇自体、そんなに簡単にできるものではありません。労働法上、ケンカ沙汰や交通違反、ちょっと行き過ぎたいたずら、といった社員の私生活上の行為に対して、会社が問答無用で懲戒処分権を自由かつ放埒(ほうらつ)に発動できる、という前近代的な措置が容認されているわけではありません。

 このような起点認識を前提とすれば、犯罪を少しでも犯せば即懲戒解雇、という野蛮な扱いは不可能であり、「私生活上の行為ではあるが、会社の信用を失墜させるなど、会社にとって容認できない経済上の損害を与えた」といった、特殊な事情にもとづく例外的論理を発動させて、ようやく懲戒解雇検討の俎上(そじょう)に乗る、ということは理解いただけると思います(情状等によっては、懲戒処分は許されても、解雇は行き過ぎなので、もうちょっと軽い懲戒処分にすべき、という帰結もありえます)。

 さらに言えば、細田氏は痴漢をしたという事実自体を争っておりますので、新聞報道をされ、ネットでバッシングを受けたといっても、勾留や起訴されただけで即懲戒解雇、というのは行き過ぎで、場合によっては、解雇無効とされる危険すらあります。

 また、退職金不支給についても、慎重に行う必要があります。

 退職金の性格は、功労に対する報奨(頑張った社員へのご褒美)との側面のほか、賃金の後払いとしての性格もあり、後者の性格に鑑みれば、「辞める直前に無作法やらかしたので、ご褒美はなし」みたいな扱いは、無条件に正当化されるものではありません。裁判例上確立している取り扱いは、就業規則に不支給に関する定めがあり、労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺するような著しく信義に反する被違行為があった場合に限って、退職金の全部または一部の不支給が容認される、というものです。このような考え方を踏まえると、却って会社が違法を指摘されかねない蛮行と言われかねないのです。

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