経営トップのための"法律オンチ"脱却講座

ケース35:降格・降給!これだけある準備すべきこと 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

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 さらに、降格と役職手当の減額と基本給の減額を行った会社の措置が争われた大阪地裁平成25年2月1日判決(C合同会社事件)では、就業規則の整備とこの運用が適正な手順で行われていることが評価され、降格と役職手当減額措置は有効とされたものの、職務グレードに対応する基本給減額の具体的金額・幅・適用基準が労働者サイドに周知されていなかったため、基本給減額は許されない、という判断がなされました。

 このように、降格・降給については、単に、企業側のニーズや、上司や周囲の評価だけで恣意的に行えるものではなく、就業規則や評価基準の整備運用といったハード面と、個別事案について、主に、不利益を受ける労働者側の予測可能性を十分担保する形で、慎重に運用されるかどうか、を考えて実施する必要があります。

今回の経営者・安良田社長への処方箋

 社長、お気持ちはわかりますが、まずは、マインドセットを変える必要がありますね。「温情で雇ってやってる」なんてあまり古臭い考え方で人事運営やっていると、解決はずるずると先延ばしになりますよ。

 人材争奪戦が激しい昨今、フェアでリーズナブルな人事機能なしでは、人が寄り付かなくなりますよ。「お前みたいなできないしやる気も無いやつは降格だ!」みたいな勢いだけで話を進めるのではなく、まずは、就業規則の見直し、評価基準の策定と運用です。

大事なことは、仕事をがんばってもらうことであり、また、降格や降給にも納得と理解を前提として本人にも事態を冷静に受け止めてもらい、最終的には発奮して再度昇格昇給に向けて努力してもらうことの方が重要でしょう。

現在直面する交渉課題への対応ですが、相手方の弁護士の言っていることももっともですし、むしろ、降格と役職手当をなくすことに積極的に応じる、というのですから、乗らない手はないでしょう。「訴訟も辞さない覚悟だが、今後の勤務姿勢を改善していただくことを期待し、今回だけは特例として基本給の減額は見送る」として、早急に評価基準の策定・周知をしましょう。

 それでも改善しなければ、すべての前提と環境を整えた上で、今度こそ、準備万端、訴訟も視野に入れつつ、基本給減額措置を検討したらいいでしょう。

畑中 鉄丸(はたなか てつまる)
弁護士・ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部在学中に司法試験(日本)及び国家公務員試験1種に各合格。新日本製鉄勤務等を経て、弁護士登録し、1998年に渡米。ペンシルバニア大ロースクール(修士課程)留学、ニューヨーク州司法試験合格後、Kirkland&Ellis法律事務所勤務等を経て、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立し、現在に至る。多数の企業・医療機関・学校法人等の顧問弁護士を務めるほか、日本弁護士連合会債権回収に関する委員会(サービサー委員会)前委員長、日本商品先物取引協会あっせん・調停委員、日本商品先物取引協会・自主規制委員会委員、一般社団法人ニューメディアリスク協会理事、子ども安全学会理事長等を歴任。著書は「企業法務バイブル」シリーズ(弘文堂)、「戦略的コンプライアンス経営」(弘文堂)、「ビジネス契約実務大全」(企業研究会、分担執筆)、「法律オンチが会社を滅ぼす」(東洋経済新報社)、「こんな法務じゃ会社がつぶれる」「生兵法務は大怪我のもと!」(第一法規)、「ヤヴァイ会社の死亡フラグ10」(経世出版)等多数。最新刊は「こんな法務じゃ会社があぶない」(2016年4月、第一法規)。

キーワード:経営、マーケティング、グローバル化、働き方改革、人材、イノベーション、経営層

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