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ケース35:降格・降給!これだけある準備すべきこと 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

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 就業規則の不利益変更について、変更に同意しない従業員を拘束するかどうかは、変更の「合理性」によって判断されることになりますが、この合理性の具体的基準についても、縷縷議論が展開されましたが、第四銀行事件最高裁判決(平成9年2月28日、最高裁第二小法廷)が、やや抽象的とはいえ、一定の基準を示すに至っています。

 すなわち、「当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、『その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性』を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」というものです。

 降格、降給でいいますと、賃金という重要な権利に関わることですので、それまで、昇給はあれど降給なし、という既定状態を一変させるべき、高度の必要性を会社が説明できる状況を整え、職場の労働組合等とときちんと協議・意見聴取を前置する必要があります。

 就業規則の定めというハード面が整備されていることを前提として、次に個別の労働者について、降格・降給という措置を実施しうるか、どいう問題になります。ここでの注意点は、評価基準の策定と周知により、労働者の予測可能性を担保しているかどうか、という点です。

 すなわち、どんなに就業規則に降格や降給が定められていても、その基準や理由が明示され、降格や降給された側にも理解し納得できるような基準運用環境が整っていないと、降格処分や賃金減額措置自体が無効とされ、会社の人事制度の信頼性が根底から崩壊し、体面を喪失し、社内の人的資源運用の前提が崩れる事になりかねません。

降格・降給措置に関するトラブル例

実際、事件となったものをみていきます。

 まず、就業規則や規程不備が争われた事件としては、使用者の一方的な賃金減額(新賃金体系導入後の調整手当支給停止)について、「法令の定めや新たな労働協約の締結又は就業規則の改訂(変更)によらない限り、就業規則等の定めに反して」実施することはできない、とされた裁判例(東京地裁平成21年7月13日、T汽船事件判決)があります。また、給与システムを改定して役職手当や営業手当等の諸手当を減額した企業に対して、使用者が従業員の資格や等級を一方的に引き下げる措置を実施するに当たっては、就業規則等の制度の定めにおいて、見直しによる降格・降級の可能性が予定され、使用者にその権限が根拠づけられていることが必要なところ、就業規則等の根拠がないにもかかわらず労働者の格付を引き下げて、その職能給を減額することは出来ない、などとして減額を違法無効とした裁判例(東京高裁平成8年12月11日、A証券事件判決)もあります。

 育児休業から復職した方に担当業務変更を行い、これに紐(ひも)づく形で降格・降給した事件について判断された東京高裁平成23年12月27日判決(Kデジタルエンタテインメント事件)があります。この事件ですが、出産を契機に産前産後休暇に入り、その後育児休業を取得し復職した労働者が、復職に際して育児短時間勤務の措置を申し出たところ、企業側は労働者の企画業務型裁量労働の適用を排除し、休業前の業務(海外ライセンス業務)から国内ライセンス業務に担務変更し、それに伴って役割グレードを従来の「B─1」から「A─9」に引き下げ、さらに、産休に入るまでの3ヶ月余に見るべき成果を上げていないことや産休のため繁忙期を経験していないことなどを考慮して原告の成果報酬をゼロと査定し、年俸額を前年度の640万円から520万円へと引き下げた、という経緯です。判例は、担当業務の変更自体は、会社の人的資源運用に関するイニシアチブを重視し有効としたものの、就業規則上、「報酬グレード」が「役割グレード」に連動した条項がなく、その説明もなされておらず、降給は人事権の濫用として違法・無効とされ、さらに、降給と連動させて行った降格も無効とされました。

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