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ケース34:団体交渉!恐れず甘く見ず 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

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今回の経営者・数寄村社長への処方箋

 やっぱり、大変な目に遭ったのですね。

 ともあれ、今回の交渉テーマは、「セクハラ」「パワハラ」という事実の有無です。

 ビデオでも残っていない限り、お互い記憶を頼りに、あれこれ議論したところで、所詮「言った言わない」の話。 どんなに誠実に議論を重ねようが、水掛け論に至ることは想定されるテーマです。

 最終的に事実の有無を公権的に判断するのは、裁判所しかできないのですから、見解の隔たりが整理され、認識が根源的に異なるところまで議論が尽くされれば、交渉によって妥協して解決できる性質のものとは考えられません。殴ったとか、お尻を触ったとかは、事実の問題ですから、当事者の認識が異なり、決定的証拠がなければ、デカイ声で話した人間が勝つとか、弱い人間の認識を採用する、という話ではありませんから。

 とはいえ、最初から、「裁判で決着するから、話は無駄」と、あまりに素っ気なく対応しても、交渉姿勢が不誠実と言われる可能性はありますので、認識の相違する根源的な事実を探るところまではきちんと議論を重ねるべきですね。

 相手方も、言葉の端々を捉えて、やれ、不当労働行為だ、都労委だ、争議行為だ、と威圧をかけてくるかもしれませんが、こちらとしては、徹頭徹尾、誠実な姿勢を崩さす、それでもなお、そのようなプレッシャーをかけるようなら、妥協をする必要はありません。

 交渉が不誠実かどうか、交渉を事実上拒否したか、なんてのも、それこそ見解が異なることもあるわけですから、こちらがきちんと対応しても、相手が違った評価をすることまでは制御できません。 都労委への救済申立てでも、争議行為でも、やってもらえればいいじゃないですか。

 不当労働行為かどうか争われれば、こちらもきちんと反論すればいいだけですし、仮に負けても、東京高裁に訴えることもできますし、救済内容としても、「ちゃんと話し合え」とか「不当労働行為をしませんと約束しろ」「謝れ」とかとお叱りを受ける程度のもので、何十億円も取られるわけでもありません。

 争議行為といっても、基本的には、もともと会社を休んでいる人がストライキをして来ないだけですから、事業には影響ないはずです。もちろん、会社の前で旗を立てて街頭宣伝をしたり、ビラをまかれたりすることもありますが、これも度をすぎれば、「正当性のない争議行為」として、別途裁判所に訴えてやめさせればいいでしょう。

 事態を甘くみることなく、相手の出方や展開する状況を正確に予測し、正しく準備し、最悪を想定し、最善を目指しつつ、真摯に、適切に対応する、ということが肝心です。かなり負け越した状態からのリリーフになりますので、ギャラは高くなりますが、なんとかやってみましょうか。ゲームオーバーになった状態で来てもらってお手上げってこともありますからね。

畑中 鉄丸(はたなか てつまる)
弁護士・ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部在学中に司法試験(日本)及び国家公務員試験1種に各合格。新日本製鉄勤務等を経て、弁護士登録し、1998年に渡米。ペンシルバニア大ロースクール(修士課程)留学、ニューヨーク州司法試験合格後、Kirkland&Ellis法律事務所勤務等を経て、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立し、現在に至る。多数の企業・医療機関・学校法人等の顧問弁護士を務めるほか、日本弁護士連合会債権回収に関する委員会(サービサー委員会)前委員長、日本商品先物取引協会あっせん・調停委員、日本商品先物取引協会・自主規制委員会委員、一般社団法人ニューメディアリスク協会理事、子ども安全学会理事長等を歴任。著書は「企業法務バイブル」シリーズ(弘文堂)、「戦略的コンプライアンス経営」(弘文堂)、「ビジネス契約実務大全」(企業研究会、分担執筆)、「法律オンチが会社を滅ぼす」(東洋経済新報社)、「こんな法務じゃ会社がつぶれる」「生兵法務は大怪我のもと!」(第一法規)、「ヤヴァイ会社の死亡フラグ10」(経世出版)等多数。最新刊は「こんな法務じゃ会社があぶない」(2016年4月、第一法規)。

キーワード:経営、マーケティング、グローバル化、働き方改革、人材、イノベーション、経営層

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