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ケース29:訴訟のコスパ やられたらやり返すな! 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

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顧問弁護士 畑中鉄丸の助言

仕返しのコスパ

 仕事、言い換えると商売、もうちょっとハイカラな言い方をするとビジネス活動とは、ドラッカー風に言えば、「成果を出すこと」がその目的です。

 じゃあ、成果って何?ということになるのですが、私の解釈では、

・カネを増やす

・支出を減らす

・時間を節約する

・手間を節約する

のいずれかに尽きます。支出は増える、時間がかかる、気の遠くなる手間がかかる、でも、カネが増えるわけでもなく、何のメリットもない。そんな、成果が出ず、意味不明で、経済合理性がないことを続けていれば、会社はつぶれます。

 ところが、現実の世界では、「支出は増える、時間がかかる、気の遠くなる手間がかかる、でも、カネが増えるわけでもなく、何のメリットもない」にもかかわらず、そんなことをお構いなしに、「カネも時間も手間もかかる、他方で、経済的な意味が全くわからない、あきれるくらい大規模なプロジェクト」をおっぱじめる企業ってのが、少なからず存在します。

 設例のように、「正義があるんです! 正義は勝ちます! これは聖なる戦いです!」と叫び、「訴訟なんです! 裁判なんです! 戦いなんです! 出るとこ出て、彼らの非道を暴くんです!」といって、裁判を始めようとするのは、その典型といえます。

 無論、訴訟をして、かなり高い確率で、数千万円、いや数億円の賠償金が手にできるのであれば、ビジネスジャッジメントとして、合理的といえなくもありません。しかしながら、設例のように、「取れてもせいぜい100万円で、しかも、裁判が不確実性の高いゲームである、という実情からすると、現実的期待値は100万円をはるかに下回る可能性がある」ということを考えれば、こんなプロジェクトに300万円を優に超えるコストや手間暇を費やすなどというのは、理解不能です。

 このような「理解不能」と判断をせざるをえないのは、企業の活動目的を、「成果を上げる」こと、と定義することが前提となっています。

 前提を変え、企業の目的を、「正義を達成する」「真理を探求する」「悪者を懲らしめる」「聖戦を遂行する」ということにするのであれば、どんなに無駄であっても、設例のようなプロジェクトにも意味が出てきそうです。しかし、企業の目的が営利の追求であることは明白であり、さらに言えば、「意地商いは破滅のもと」などという格言もあるくらいですから、この種の、意地を張ったり、こけんやメンツを保つために、企業の資源を費消すると、そのうち会社が傾きかねません。

 いずれにせよ、設例のような、復讐したい、仇討ちしたい、という古市社長の気持ちは共感できるものの、コスパを考えると、この種のプロジェクトを企業の活動として遂行するには、かなり難しい、というか、不可能というか、考えるまでもなくやってはいけない、ということが容易に理解されるところです。

 でも、どうしてもそのような腹の立つ帰結になるのでしょうか? 何が間違っているのでしょうか? ここで、紛議解決の社会的インフラとしての裁判制度を、冷静かつ現実的にみていきましょう。

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