経営トップのための"法律オンチ"脱却講座

ケース19:あな恐ろしや、ブラックの烙印押されかねない労働審判 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

今回の経営者・柴社長への処方箋

 社長、これ、結構ヤヴァい状況です。まず、正しく状況を認識しましょう。今回の件ですが、解雇した従業員が争う解雇の有効性は、かなり分が悪いですし、社長が親切で行った食事を交えた苦労話や指導についても、成り行き次第では、「労働時間」と判断される可能性も十分あります。

 というより、社長の会社は、就業規則もどこにあるか不明で、時間外・休日労働に関する労使協定(三六協定)もおざなりで、労働時間管理もいい加減で、全体的に、労使関係がヌルく、まあ、労使ともに甘えているというか、もたれあいの構造となっています。

 無論、そういう雰囲気の会社は、労使円満の状況であれば、それなりの合理性をもって理解されるところですし、私も、理解して差し上げたい。他方で、労使間に亀裂が入り、「会社に愛想をつかされ、もはや会社になんぞ、気を遣う必要がない」と判断した従業員サイドが、労働法の専門家の力を借りて、鵜の目鷹の目で粗探しをすると、ひとたまりもなく、「ブラック企業」の烙印を押されかねない、そんなリスキーな状況にあるとも言えます。

 そして、裁判所は労使問題において、「常に、当然企業側に立つ」とは言いがたい、独特の哲学と価値観と思想を有しています。私の経験上の認識によれば、裁判所には「会社の得手勝手な解雇は許さないし、従業員に対しては約束したカネはきっちり払わせる。他方で、従業員サイドにおいては、会社に人生まるごと面倒見てもらっているようなもんだから、配置転換とか勤務地とか出向についてガタガタ文句を言ったり、些細なことをパワハラとかイジメとか言って騒ぐな」という考えがあるように見えます。

 要するに、解雇や残業代未払いについては従業員側に立った判断をする傾向があり、他方で、配転や出向やそのほかの社内処遇については会社の広汎な裁量を認める傾向にある、と整理されます。

 今回は、解雇の有効性についてグレーですし、また、残業代についても分が悪い。本来ですと、相当な時間準備して、しっかりとこちらのストーリーとエビデンスを構築・整備して、短時間で効果的なプレゼンをして、しっかり理解してもらわないと、従業員サイドのストーリーがどんどん幅を効かせるリスクがあります。

 加えて、今回は労働審判です。ドラマで言うと、3カ月とか1年とか続く連続ドラマや大河ドラマではなく、2時間で終わる映画のようなもの。いきなり第1回期日で、こちらのストーリープレゼンがすべて終了する、と考えておいた方がいいでしょう。

 期日変更は不可。今から、すべての事実関係を整理し、証拠をそろえ、当日の事情聴取リハーサルをして、短い時間で、要領よく、こちらのスタンスなり、従業員の行動や態度の不当性と、こちらの措置の正当性が自然に理解されるようなエピソードをプレゼンしなければなりません。

 状況は厳しいですが、できる限り準備を尽くして臨みましょう。それと、労働審判では、かなりの確率で、強硬な和解勧告が行われます。今回のケースで最重要の防衛ラインは、復職を認めさせず、労働関係を終わらせること。復職とかされようものなら、社長のメンツは丸つぶれで、しかも、定年まで厄介者が居座る可能性もあります。労働関係終了を前提に、いくばくかのカネを払う」という方向が呈示されたらシメたものです。

 和解金をこれ以上払うのは悔しいかもしれませんが、職場から総スカン食らっている、常識の異なる人間を定年まで雇用し続ける耐え難さに比べれば、合理的ともいえます。極力、和解金を値切りますが、そのような方向性も腹積もりとしてもっておいてください。では、時間もないので、早速、準備にとりかかりましょう。

畑中 鉄丸(はたなか てつまる)
弁護士・ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部在学中に司法試験(日本)及び国家公務員試験1種に各合格。新日本製鉄勤務等を経て、弁護士登録し、1998年に渡米。ペンシルバニア大ロースクール(修士課程)留学、ニューヨーク州司法試験合格後、Kirkland&Ellis法律事務所勤務等を経て、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立し、現在に至る。多数の企業・医療機関・学校法人等の顧問弁護士を務めるほか、日本弁護士連合会債権回収に関する委員会(サービサー委員会)委員長、日本商品先物取引協会あっせん・調停委員、日本商品先物取引協会・自主規制委員会委員、一般社団法人ニューメディアリスク協会理事、子ども安全学会理事長等を歴任。著書は「企業法務バイブル」シリーズ(弘文堂)、「戦略的コンプライアンス経営」(弘文堂)、「ビジネス契約実務大全」(企業研究会、分担執筆)、「法律オンチが会社を滅ぼす」(東洋経済新報社)、「こんな法務じゃ会社がつぶれる」「生兵法務は大怪我のもと!」(第一法規)、「ヤヴァイ会社の死亡フラグ10」(経世出版)等多数。最新刊は「こんな法務じゃ会社があぶない」(2006年4月、第一法規)。

キーワード:経営、マーケティング、グローバル化、働き方改革、人材、イノベーション、経営層

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。