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ケース13:採用は自由、されど解雇は不自由。それも、シビれるくらい不自由 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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解雇不自由の原則("解雇不可能"の原則)

<東京高裁平成25年3月21日判決(会社側勝訴の裁判事例)>

 これに対して、最近、東京高裁から、前掲の東京地裁決定で問題となった就業規則と類似する条項「勤務態度が著しく不良で、改善の見込みがないと認められるとき」にあたるとして、普通解雇を認めた裁判例が下されています。

 このケースでは、適切な証拠が会社から提出された結果、裁判所は、次のような事実認定のもと、普通解雇を有効として、会社を勝たせました。

(1)企業Bは、原告(解雇された従業員。わかりやすくするため、従業員βとします)に対して、約5年間にわたり、改善プログラムにおける指導や、複数の上司による日常的な指導を通じて、業務能力、勤務態度上の問題の改善を試みてきたものと認められる。
(2)協業を命じる業務命令は,人事権の裁量の範囲内の命令として適法であると認められ、従業員βは,合理的な理由がないのにこれを拒否している以上、勤務態度が著しく不良であると言わざるを得ない。
(3)従業員βが自己の意見に固執するあまり企業Bの社内の手続に則らない行動をとっていると認めることができ、勤務態度が不良であることの一事情として考慮できるというべきである。
(4)上記各メールは、上司あるいは他の従業員に対するメールとして不適切、非常識な表現を含むものであり、上記認定のとおり、このようなメールの送信が平成17年から平成21年までの間に断続的に見受けられることも考慮すると、勤務態度が著しく悪く、従業員として不適格であることを基礎付ける一事情として考慮できる。

 この高裁判決からすれば、東京地裁決定でも触れられていた、

(1)絶対評価で「著しく労働能力が劣る」ことを示す具体的な証拠を普段から集めておくこと
(2)勤務態度や能力改善のための教育・指導を実施した証拠を、教育や指導をするたびに集めておくこと

の重要性がご理解いただけるかと思われます。

 上記事件で企業側が勝利したといっても、際どい戦局での辛勝と言えますし、前述の高知放送事件の最高裁判例がある以上、解決するまで冷や冷やする状況であったことは否めません。

 しかも、弁護士費用もそうですが、過去の状況を洗い出し、明確な記録・痕跡を添えてプレゼンするのは、社内リソースを費消し、しかも、リソースを費やしても、1円の収益貢献もしません。というよりも、未来の収益創造のために最適化された営業リソースを、過去の粗探しのために用いること自体、企業としては致命的なマイナスです。こうした会社が勝訴するまでに費やした時間、労力、コストを考えると、「呵々大笑(かかたいしょう)して心から勝訴を喜べる」という状況でもなかろうと推測できます。

 その意味では、「解雇はまず不可能」「そんな解雇をやりきるのも、完全に不可能というわけではないが、解雇するとなると、大変な時間・労力・コストを要するミッション・インポッシブルをクリアしなければならない。そんなことを踏まえ、企業経営として現実的に考える限り、解雇は、やっぱり"事実上"不可能」というほかないと思います。

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