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ケース17:不祥事記者会見をなんとか乗り切るための極意 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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 東日本大震災の直後、東京電力福島第1原子力発電所で爆発事故があり、東北や関東地方に放射性物質がまき散らされたという悲惨な事件が発生しました。普通に考えれば、「関東東北一円を厄災に陥れた、人類史上最悪の原子力災害」であり、もっと騒がれるべきはずのものです。しかも、この大チョンボは、電力会社と所管官庁の無能と怠慢と傲慢さが招いた人災であり、言い訳のできない人為的ミスによるものです。

官僚答弁や政府談話に学ぶ危機管理対処スキル

 他方で、危機管理モデルの巧拙という視点で評価しますと、この大事件を国民に伝える記者会見などで見られた、「日本国政府や東京電力の、"霞が関文学"や"霞が関言葉"を効果的に活用し、徹底して、事態を矮小化して伝え、責任の所在をあいまいにし、姑息に、卑怯に、時間稼ぎをして、窮地を乗り切った」危機管理スキルは、際立った秀逸さが見て取れます。

「福島第1原発で何らかの"爆発的事象"の発生が確認されました」

「直ちに人体に影響を及ぼすものではありません」

「微量です。心配要りません。落ち着いてください。念のためです」

「原子炉の堅牢性は確認されている、とのことです」

 といった、霞が関文学の粋を集めた数々の名文句(迷文句)にもさることながら、情報を小出しにし、サンドバッグ役に適した真面目で誠実そうなキャラのスポークスマンを配置し、病気や疲労という名目でスポークスマンを入れ替えて、特定個人が注目されないような配慮をしていました。

 また、状況説明においてもできる限り難解で高尚な専門用語を多用し、他律的で外罰的な印象操作を行いつつ、「事態対処に向けて努力をしている」という姿勢を前面に出して、それ以上突っ込んで批判されにくい雰囲気を演出するなど、芸術的とも言える姑息さが発揮されていました。

 このように、福島第1原発事故の会見対応スキルは、「危機管理技術の粋を集めたプロジェクトマネジメントであった」と評価できます(無論、原発事故そのものは決して許されるものではありません。責任者は未来永劫非難されるべきです)。

 日本には、「自らの過ちによって招いてしまった大チョンボを、特異で巧みなスキルで乗り切り、"無謬性"というブランドを維持し続けている組織ないし集団」が存在し、しかも、そのスキルは、広く公開されていて、その気になれば、サンプルは日々ばらまかれており、いくらでも学べる環境にあると言えるのです。

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