経営トップのための"法律オンチ"脱却講座

ケース17:不祥事記者会見をなんとか乗り切るための極意 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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「無謬性」を本分とする日本一優秀な官僚の根源的なスキル

 「官僚たちが、なぜ、こんな分かりにくい言葉を使うか」というと、真実や、本質的なことを伝わりにくくし、うまいこと言い逃れをしたり、言質を取られないようにするためです。平たく言うと、人々を"煙に巻く"ためでしょうか。

 官庁ないし官僚は言ってみれば、日本という組織の「事業部」ないし「当該事業責任者」です。この方々や組織においては、何はさておき、ミスは絶対許されません。絶対です。マジです。ガチです。鉄板です。

 この「どんな些細なことであれ、ミスが許されない」という完全で絶対的な廉潔さは、難しい言葉で言うと、「無謬性(むびゅうせい)」となるでしょうか。

 とはいえ、官僚といえども、人間です。人工知能でもペッパー君でもSiriちゃんでもなく、フツーの人間です。そして、官庁もフツーの人間の集団である以上、間違いの1つや2つ、百や千、十万、百万くらい、フツーにやらかしちゃいます。

 「無謬性を根本原理とする国家のプロジェクトの責任者」としてミスは絶対許されない。他方で、ミスは避けられない。じゃあ、このジレンマをどうするか?

 方法としては、

(1)ミスを犯さないようにする

(2)ミスが発生してもミスがあったか、なかったか、そんなものが判別しにくいようにしておく

(3)万が一、ミスがあっても、うまいこと言い逃れしたり、煙に巻いたりする対処スキルを持っておく

 ということになります。

 そのためには、状況がストレートに伝わったり、そこらへんの一般ピーポーが常識的に理解できるような事態説明をしたり、ミスを人為的なものとしてお詫びしたりしてはいけません。極力、抽象的で難解で、そこらへんの一般ピーポーが辞書を引かないと理解できないような言葉を常に使って「目くらまし」をすべきです。

 さらに、どんなに明白なミスであっても特定の担当者や担当部署のチョンボとして謝罪をせず、不可避な外的事象によるものと説明することになります。どんなに凄惨でショッキングで容認しがたい状況であっても、マイルドに言い換える表現マジックを用い、世間に受け入れやすい温和で穏当なイメージに変えていく。こんな高度な"技術"が必要になります。

 このような高度なスキルを凝縮した言い回しが「霞が関言葉」で、それを巧みに操るスーパースター級の人材が集積するドリームチームとも言える組織が、霞が関の官庁なのです。ちなみに、「霞が関言葉」は、一朝一夕に出来上がったものではありません。長年の歴史的な伝統に基づき形成されてきた「匠の技」とも言うべきものです。

 例えば、第2次世界大戦における歴史的事実に関しては、「ボロ負けの末の撤退」を「転戦」と言い換え、「敗戦」を「終戦」と言い換え、「占領軍」を「進駐軍」と言い換えるなどして、ぶざまな失敗を取り繕い、隠蔽しようとします。

 現在でも、各種"大人の事情"で、「日米軍事同盟」を「日米安全保障体制」と言い換え、「国防軍」を「自衛隊」と言い換え、さらに最近では、「某国から発射されたミサイルを迎撃して撃ち落とす作戦命令」を「某国から飛来した"飛翔体"に対する破壊措置命令」と言い換えたりするなど、涙ぐましいまでの姑息(こそく)な表現マジック上の努力を行い、事態をより分かりにくく、伝わりにくくするための「匠の技」が見事に伝承されています。

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