経営トップのための"法律オンチ"脱却講座

ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!? 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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 なお、先輩のお歴々は、「D&O保険があるから大丈夫」などと言っておられるようですが、普通、D&O保険に入る際に渡される、米粒より小さい文字で埋め尽くされた約款には、「法令に違反することを被保険者が認識しながら(認識していたと判断できる合理的な理由が存在する場合を含む)実施した行為については、保険金を払えない」などと書かれています。

 本件については、最高裁判例がすでにあるところであり、取締役になるようなレベルの方であれば、当然、知っているはず、などと言われかねません。したがって、「法令に定められた善管注意義務に違反することを認識」しながら、小田原評定を繰り返していた、などと保険会社は主張するでしょう。

 このように、本件では、D&O保険が頼れない可能性もあるので、「どうせ保険があるからいいや」なんてタカをくくっていると、本当に大変なことになりますよ!

 この「河内食品」という会社を船に例えると、仁柿さんは、船長ではないにしても、航海長とか一等航海士とかの立場です。しかも、救命胴衣(D&O保険)を着ているつもりが、実は着ていない状態かもしれない。

 このまま、大先輩たちの言うがまま、船が間違った方角に進んでいると、氷山に激突したり座礁したりして、大先輩たちもろとも、無理心中、海の藻屑ですからね。

 反抗したり抵抗したりすると、会社の先輩重役たちから白い目でみられるかもしれませんし、嫌がらせをうけるかもしれません。

 とはいえ、仁柿さんの立場は、使用人兼務取締役であり、実質的には雇用されている労働者としての法的立場も有しており、解雇は困難ですし、解雇されるようであれば、「公益的立場からまっとうな発言をしたら、報復で解雇された」という理由で訴訟を提起できます。

 そうなったら、会社の恥部が全面的にえぐり出されますし、会社も、そのような「公開羞恥プレー」状態を忌避して、応訴も嫌がるでしょうし、いいところ飼い殺しにするほかありません。

 まあ、役員になって早々、大変なトラブルに遭遇したことは事実ですが、法律知識を正しくもって、連座させられることのないよう、しっかりと対応していくべきですね。

畑中 鉄丸(はたなか てつまる)
弁護士・ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部在学中に司法試験(日本)及び国家公務員試験1種に各合格。新日本製鉄勤務等を経て、弁護士登録し、1998年に渡米。ペンシルバニア大ロースクール(修士課程)留学、ニューヨーク州司法試験合格後、Kirkland&Ellis法律事務所勤務等を経て、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立し、現在に至る。多数の企業・医療機関・学校法人等の顧問弁護士を務めるほか、日本弁護士連合会債権回収に関する委員会(サービサー委員会)委員長、日本商品先物取引協会あっせん・調停委員、一般社団法人ニューメディアリスク協会理事等を務める。著書は「企業法務バイブル」シリーズ(弘文堂)、「戦略的コンプライアンス経営」(弘文堂)、「ビジネス契約実務大全」(企業研究会、分担執筆)、「法律オンチが会社を滅ぼす」(東洋経済新報社)、「こんな法務じゃ会社がつぶれる」「生兵法務は大怪我のもと!」(第一法規)、電子書籍「鉄丸弁護士が説く!会社倒産シグナル10」(アクセルマーク株式会社)、「ヤヴァイ会社の死亡フラグ10」(経世出版)等多数。

キーワード:経営、マーケティング、グローバル化、働き方改革、人材、イノベーション、経営層

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