経営トップのための"法律オンチ"脱却講座

ケース12:ヤバイ情報は聞かなかったことにして乗り切れ!? 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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「経営判断原則」による責任軽減

 このように、「間違った行為をして、又は、ちゃんとした行為をしなかったことで、会社に損害を及ぼした場合」には、取締役は、身銭を切って賠償する責任を課せられています。

 とはいえ、会社の経営というのは、スピードと即応力が何より重要であり、不確実な状況で、迅速な判断を迫られることが多いのが実情です。後になってから判明した事実に照らせば、「あの行為は間違っていた」ということは、多々あるのが普通です。

 それなのに、後になってから、後出しジャンケンのごとく、「あのときは、こういうふうにすべきだったんだよ。こんな結果になったのは、オマエの責任だろ?」との非難を、どのようなケースにおいても受けるというのでは、取締役になんて、怖くて誰もなれません。

 もし、取締役になる者がいたとしても、「この種の『後知恵(あとぢえ)」』で、不当に非難をされても困る」というふうになります。その結果、「少しでも迷ったら、絶対動かない。冒険なんてありえない。積極策も一切なし。その結果、会社が傾いても知ったこっちゃない。株主の利益?はあ? そんなことより、自分の身の保全でしょ!」という態度を取ることになりかねません。

 そうなると、結果、会社が積極的な経営をするスピリッツを喪失し、株主をはじめとした会社をとりまく利害関係者全員が迷惑を被ることにつながりかねません。

 そこで、「後知恵で、取締役の責任をガタガタ問うような、不細工なことはいたしまへん。そやさかい、とりあえず、やってみなはれ」という法理が存在します。これが、会社法における「経営判断の原則」という法理です。

 経営判断の原則、欧米ではビジネスジャッジメントルールと言われる法理ですが、会社のトップたちがヘマをやらかし会社の経営がおかしくなった場合の責任追及の場面で顔を出すものです。

 裁判例いわく

「取締役は日常的な業務執行に関して、一定の裁量を有していると考えられている。元来、経営にあたってはリスクが伴うのが常であり、結果的に会社が損害を負った場合に、事後的に経営者の判断を審査して取締役などの責任を問うことを無限定に認めるならば、取締役の経営判断が不合理に萎縮するおそれがある。

そこで、取締役などの経営者が行った判断を事後的に裁判所が審査することについて一定の限界を設けるものとし、会社の取締役が必要な情報を得た上で、その会社の最大の利益になると正直に信じて行った場合には、取締役を義務違反に問わない」

そうです。

 この、日本語に難のある、"外国語"のような裁判例をフツーの日本語に"翻訳"しますと、要するに

「経営に失敗したからといって、なんでもかんでも取締役のせいにしたら、取締役がかわいそうだし、取締役のなり手がいなくなる。なので、よほど悪さをしたのでないかぎり、うっかりチョンボくらい大目にみてやれ」

ということなのです。

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