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ケース10:"固定残業代制度"で、残業規制も難なくクリア!? 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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今回の経営者・高霧(たかきり)社長への処方箋

 今回の株式会社やもめ食堂は、深夜の営業に特化した飲み屋さんということで、ある程度深夜手当を支払うことは覚悟しなければならない営業形態です。さらに、突発的な繁忙も生じやすいようであり、一定程度時間外労働が生じてしまうこともやむを得ないようです。

 このような営業形態の事業を経営するに際し、高霧社長は、きちんと労働法を守りつつ、適切な形で人件費というコストを経営に生かしていこうとして、固定残業代制度を採用されたものと思われます。

 しかし、株式会社やもめ食堂の「固定残業代制度」においては「固定残業代5万円」が「時間外労働30時間分」と「深夜手当」を含むと大まかな形でしか定められておらず、5万円のうち、いくらが「深夜労働」で、いくらが「時間外労働の割増賃金分」に充当されるのかはっきりせず、ここに紛争の火種が存在します。

 これでは、労働者が残業代をきちんと計算することができず、最近の裁判例や実務の傾向からすると、「きちんと割増賃金が計算できる体制を確保しないといけないとする労働法の趣旨に反する」として、将来、紛争が起こった場合、固定残業代制度の有効性に疑義が呈されかねません。

 もし、固定残業代が認められないとすると、「固定給25万円」丸々が基本給とされてしまい、これを元に一から時間外労働の割増賃金、深夜手当が計算され、さらに加えて、金利や附加金といった余計なオマケまでつけられ、想定外の多額の賃金を払わされる可能性すらあります。

 固定残業代制度自体、全ての疑義を払拭し、きちんとした形で運用されるなら、労使双方にメリットのある賃金形態なのですが、この制度の構築を雑にすると、後々、トラブルに見まわれ、想定外の大きなコストを負担してしまうことにつながりかねません。

 まあ、アイデアとしては非常にいいのですが、導入に際しては、きちんと専門家に相談して、裁判例等が要求する水準を満たすような制度基盤を整えておくべきですね。

 え? 何? 「今度、ウチで美味しいものを奢るから、顧問料の範囲内で、全部やってよ」って?

 いえいえ、御社のお店に行く際にはきっちりとお支払いしますので、御社も別途のフィーできっちりとお願いします。とはいえ、当法人のサービスは、御社のお店同様、「うまくて」、「早くて」、「安い」とはいいませんが、「そこそこ」の額ですので、どうぞ、ご安心を。

畑中 鉄丸(はたなか てつまる)
弁護士・ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部在学中に司法試験(日本)及び国家公務員試験1種に各合格。新日本製鉄勤務等を経て、弁護士登録し、1998年に渡米。ペンシルバニア大ロースクール(修士課程)留学、ニューヨーク州司法試験合格後、Kirkland&Ellis法律事務所勤務等を経て、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立し、現在に至る。多数の企業・医療機関・学校法人等の顧問弁護士を務めるほか、日本弁護士連合会債権回収に関する委員会(サービサー委員会)委員長、日本商品先物取引協会あっせん・調停委員、一般社団法人ニューメディアリスク協会理事等を務める。著書は「企業法務バイブル」シリーズ(弘文堂)、「戦略的コンプライアンス経営」(弘文堂)、「ビジネス契約実務大全」(企業研究会、分担執筆)、「法律オンチが会社を滅ぼす」(東洋経済新報社)、「こんな法務じゃ会社がつぶれる」「生兵法務は大怪我のもと!」(第一法規)、電子書籍「鉄丸弁護士が説く!会社倒産シグナル10」(アクセルマーク株式会社)、「ヤヴァイ会社の死亡フラグ10」(経世出版)等多数。

キーワード:経営、マーケティング、グローバル化、働き方改革、人材、イノベーション、経営層

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