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ケース10:"固定残業代制度"で、残業規制も難なくクリア!? 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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「固定残業代」なるアイデアの出現

 このように、深夜労働や、時間外労働の「割増賃金」に関する「負の側面」は、人件費の増大という形で企業経営を圧迫することから、企業側としては、このような「割増賃金」の「負の側面」をどうにかしなければならない、ということを考えるようになってきました。

 時間外労働に対する「割増賃金」の発生を抑止する方策としては、そもそも残業が起きないように十分な要員体制を整えるまでバカスカ労働者を雇い続けるか、あるいは、深夜や休日の稼働が経営体制上不可避な場合、シフト勤務制(交替勤務制)を整備することが考えられます。

 しかし、日本の労働法制上、一度雇ってしまうと容易に解雇ができないこともあり、「景気がいいから」、あるいは「商売が拡大基調にあるから」といって、ホイホイ雇用を増やすと、不景気の際や成長が止まった時には、今度は解雇できず、にっちもさっちも行かなくなりかねず、企業としては大きなリスクを抱えることになります。

 景気不景気や繁閑の差のことを考えると、繁忙期には時間外労働、残業をしてもらい、閑散期には時間外労働をなくすという形で人件費を調整するほうが好まれる傾向にあります。

 別の解決策として、ある程度「割増賃金」を支払うことは覚悟の上で、逆に「割増賃金」を経営に生かしていこうという方向も存在します。これが今回問題となっている残業代を固定するという方法です。

 本件において、タクシー会社の社長や高霧社長の採る方策、すなわち、「固定給25万円」のうち、20万円については「基本給」とし、5万円については、月30時間分の「残業代」、「深夜手当」等に充てるとするものです。

 このような仕組みは経営上大きなメリットがあります。

 まず、固定給が大きく見せられるということがあります。「固定給25万円。店員大募集!」といって求人をかけるのと、「基本給20万円!残業代支給あり!」と宣伝するのでは、「固定給25万円」の方がより採用力が増幅し、特に、人手不足の昨今においては、求人で頭を悩ませる経営者には大きなメリットがあります。

 加えて、固定残業代制度では、仕事の早い人に、さらに効率的に仕事をしてもらうというインセンティブを与えることもあります。すなわち、残業しようがしまいが、固定して月25万円を給料として出すのですから、仕事が速い人にとっては、早く仕事を終わらせ、早く家に帰る事ができ、やる気のある人にさらにやる気を出してもらうことができる、というわけです。

 この他に、労務運営においては、「残業代の計算が楽になる」ということも挙げられます。残業代を支払うには、そもそも、どの程度残業したのか「時間計算」をし、その上で、割増賃金を計算していく必要がありますが、これがなかなかに厄介です。

 「固定給」のうちに「残業代」も含ませることにしてしまえば、このような残業時間計算や残業代の上乗せ賃金の面倒臭い計算の手間が省け、さらに、時間と経費とエネルギーの削減につながり、まさしく、いいコト尽くめと評価することもできそうです。

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