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ケース7:裁判所からみれば、企業間紛争も「犬も食わない、しょうもない夫婦げんか」と同じ?! 弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸(はたなか てつまる) 氏

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 一方、誹謗中傷等に関しては、全くの別問題として、前述のように事実照会の文書を幾度も送付し続けるべき、ということになります。

 また訴訟に先立つものとしては、即効性のある対応ではありませんが、峻烈で拙速な対応に出ることが貸金訴訟等との関係でも不利となることは前述のとおりですから、エレガントさを失わず、ソリッドかつ丁寧に事実照会をしていき、有利な材料を集めておく必要があります。

 このような対応をしていくことで、いつの間にか「自分こそが被害者である」という事実が、証拠が明確に存在する形で浮かび上がってくるのであり、ここに至って初めて、照会に関するやりとりを通じて確認された相手方の認識を、相手方も否定しようのない客観的な事実として、貸金訴訟等でも援用することが可能となります。

 裁判所としても、このような地味で堅実な努力を怠らない勤勉な当事者は、「救済に値するお品の良い被害者」として扱ってくれる方向に流れやすく、そうすると、貸金合意に関しても、「借用書その他決定的証拠に乏しいとはいえ、主張する事実は確実に存在していたのであり、富井さんはだまされた、気の毒な被害者なんだろう」という心証を形成しやすくなります。

 このような、「時間と労力はかかるし、地味でつまんないが堅実で保守的な対応」こそが、本件のような「決定打を欠く、犬も食わない、しょうもない民事紛争」への適切な対応といえます。まさしく「急がば回れ」ですね。

 それよりも何よりも、今後は、大きなカネやリソースをかけた勝負をする際は、性悪説を前提に、きちんとした文書を交わすべきですね。大金や大きな可能性をはらんだ事業を推進する際は、どんな人間、どんな前提、どんな常識も信用してはいけませんから。

畑中 鉄丸(はたなか てつまる)
弁護士・ニューヨーク州弁護士。東京大学法学部在学中に司法試験(日本)及び国家公務員試験1種に各合格。新日本製鉄勤務等を経て、弁護士登録し、1998年に渡米。ペンシルバニア大ロースクール(修士課程)留学、ニューヨーク州司法試験合格後、Kirkland&Ellis法律事務所勤務等を経て、弁護士法人畑中鐵丸法律事務所を設立し、現在に至る。多数の企業・医療機関・学校法人等の顧問弁護士を務めるほか、日本弁護士連合会債権回収に関する委員会(サービサー委員会)委員長、日本商品先物取引協会あっせん・調停委員、一般社団法人ニューメディアリスク協会理事等を務める。著書は「企業法務バイブル」シリーズ(弘文堂)、「戦略的コンプライアンス経営」(弘文堂)、「ビジネス契約実務大全」(企業研究会、分担執筆)、「法律オンチが会社を滅ぼす」(東洋経済新報社)、「こんな法務じゃ会社がつぶれる」「生兵法務は大怪我のもと!」(第一法規)、電子書籍「鉄丸弁護士が説く!会社倒産シグナル10」(アクセルマーク株式会社)等多数。

キーワード:経営、マーケティング、グローバル化、働き方改革、人材、イノベーション、経営層

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